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「まさかこの段階で自覚するとか……」
葛城が喉の奥で低く笑うと、抱き寄せられている晴香にもその振動が伝わってきて恥ずかしいやら八つ当たりでの腹立たしさやらで目の前がグルグルとしてくる。
「してました! 自覚はしてました!!」
「本当にかぁ?」
「好きだって思ってなかったらそもそも先週おとなしく先輩の家になんかいないです!」
「でもあの時はどっちかってーと俺に流されてただろ?」
「そりゃあんな怒濤の勢いでこられたら流されますよねえ!?」
気持ちを告げられ、自分もそうだと自覚し、そして勢いに呑まれた。それでもちゃんと葛城の事は好きだと思っていたのだあの時点でも。ただそれが「親愛」の情が強すぎて、まだ恋愛感情を上回っていた。それがやっとと言うか、このタイミングでと言うかで入れ替わったのだ。
触れて欲しい、触れたい、恋愛の対象として、この人が好きだのだと。
「ちょっと……こう……あの……むり……」
自覚した感情も恥ずかしいけれど、ここまで自覚してこなかったという事実もまた恥ずかしすぎる。いくらなんでも酷すぎではなかろうか、自分が。中高生の恋愛にしたってここまで酷くはないはずだ。
「せんぱいむりぃぃぃぃぃ」
「奇遇だな、俺ももう無理だ」
声は静かであるのに、そこに込められた熱の高さに晴香は身を竦める。腕の中のその反応に構わず葛城は晴香の両膝に腕を回しヒョイと立ち上がった。子供の様に縦抱きにされ、晴香は驚きに背を反らせた。
「先輩!?」
「暴れんなよ落ちるぞ」
「いやだから先輩!」
はいはい、と晴香の背を宥めるように叩きながら葛城はベッドへ向かう。無理、ほんと無理、と晴香は何度も繰り返すが聞き入れてもらえない。
ベッドに降ろされそのまま押し倒される。背中に伝わるシーツの冷たさに背が震えるが、掴まれたままの腕だけは熱を孕んでいる。
「ここ、気持ち悪いんだろ?」
そっと葛城の唇が赤くなった肌に触れた。それだけでさらに熱が上がる。
「っ……もう、だいじょうぶ、です」
だから離してください、と晴香が腕を引くがびくともしない。葛城は唇を寄せたまま晴香に笑みを向ける。
「他の男の匂いがする」
軽く鼻を鳴らすとその先端が肌を刺激してくすぐったい。
「そんなこと」
あるわけない、と続ける晴香に葛城は言葉を被せた。
「だから上書きしてやる」
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