二回目の金曜日・3

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 薄い下腹の辺りに大きな熱の塊がある。自分の胎内に他人の体の一部があるって不思議な感覚だなあ、と考えた所でふと気付く。今、なんだか、とてつもなく恥ずかしいというかマズイ事を言ってしまったのではないかと。 「ぅあッ!?」  途端、中にある葛城の昂りが大きくなった。突然増えた質量と熱に晴香は文字通り目を白黒させて驚く。なんで、どうして、と葛城を見れば心底気まずそうな顔をして項垂れている。 「……悪い」 「先輩大丈夫ですか?」 「あんま大丈夫じゃないけど……今のは流石に俺は悪くないだろうと思うけど……うん、まあ、なんだ」 「先輩?」 「無自覚のタチの悪さ……」  会話が噛み合わない。んんん? と首を傾げていると、葛城は項垂れたまま晴香の様子を見て小さく安堵の息を吐いた。 「お前大丈夫そうか?」 「わたしですか?」 「痛くはない?」 「う……は、い……なんとか……? 痛いというより、お、お腹が、いっぱいな感じでちょっと苦しいかなって」  自分の状態を説明する恥ずかしさに体が無意識に動く。と、その微かな動きでも伝わるのか葛城の眉間に皺が寄る。先程晴香が手で握っていた時と同じ様でもあるが、でも自分だって少なからず苦痛は感じているのだから先輩も今は違うのかもしれない。晴香はおずおずと葛城の頬に手を伸ばす。 「先輩こそ大丈夫なんですか? なんだかすごい辛そうですけど」 「……覚悟はしてたけど、だいぶ辛いなコレ」  葛城の吐く息が熱い。額には薄らとだが汗も滲んでおり、これは自分以上にマズイのではなかろうかと晴香は慌てる。  え、これどうしたらいい? こう言う時ってどうするのが正解!?  考えるが当然何も浮かばない。ならば逆にこれまで自分がして貰った事をやればいいのではなかろうかと気が付いた。自分が痛みと苦しさに耐えていた時に葛城はどうしていただろうか。 「せ、先輩!」  葛城がどうした、と口を開くより先に晴香は続きを叫ぶ。 「がんばれ!!」  ブハァッ、と葛城が盛大に吹き出す。その後ゲホゴホとこれまた大きく噎せ返るものだから、その動きに合わせて晴香の身体も小刻みに揺らされる。ともすれば上がりそうになる短い声を懸命に唇を噛んで耐えながら、晴香は今宵一番と言うか葛城とこうなってから一番のやらかしを自覚した。  間違えた。これはどう言い訳のしようもなく大間違いのやつ、と穴があったら入るしかない。せめて顔を隠したいが枕は無く、せめてシーツにと身を捩ろうとするとその動きにも一々反応してしまうので動けない。仕方が無いので両手で顔を覆って「すみません」と蚊の鳴く様な声で詫びを口にする。  しばらく咳き込み続けていた葛城であるが、どうにかこうにか呼吸を落ち着かせると晴香の両腕をそっと掴む。
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