二回目の金曜日・3

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「顔見せろ」  ほんとおまえ、と心底呆れ返った声に晴香はますます身を縮める。ない、今のはない、と自分でも良く分かっている。いくらなんでもなさすぎだ。これでは過去に「萎えた」と言われたのも仕方が無い。  ここ一番での発言が本当にひどい。 「……おわびのしようもなく」 「なにが?」 「いや……だって……さすがにいまのは……」 「っ……がんばれ……」  く、とまた葛城の声が揺れる。晴香は両手で顔を覆ったまま「うあああああああ」と低く長い叫びを上げる。 「まあ頑張った分のご褒美はあるからもう少し耐えるさ」 「……え」 「ん?」  晴香は少しばかり指を開きその隙間から葛城を見る。てっきり呆れ、萎え、怒りで険しい顔をしていると思っていたのだが。  呆れた顔はしつつも楽しそうに口元を緩めている。そして晴香に向ける眼差しは優しいけれど、その瞳の奥に宿る色はずっとそのままで消えていない。 「え?」 「どうした?」 「……萎えないんですか?」 「お前今日は至近距離からデッドボール投げすぎじゃね?」 「先輩に押し倒されてるからですかね?」 「まあナカに突っ込んでるような距離だしな」 「先輩こそデッドボールでは!」 「俺のクララが元気なのはお前が一番分かるだろ」 「だからーっ!! 児童文学にあやまれええええええ!!」  いつぞやの酷すぎる発言がここにきてまたしても炸裂する。思わず顔を隠すのも忘れて葛城の胸やら腕をバチバチと叩くと難なく掴まれ、そしてベッドに抑え付けられた。 「今もこんなだよ」  葛城が軽く腰を揺らす。晴香はヒクリと喉を鳴らした。胎内にある熱はいまだそのままで、失われる気配は欠片も無い。  なんで、と知らず口にすれば葛城は怪訝そうに眉を顰めた。 「なにがだ」 「なにがって……こんなタイミングであんなこと言われたら普通萎えません? てか先輩の発言でむしろわたしが萎えそうですよ!?」 「前も言っただろ」 「だからって!」 「ソッチじゃねえよ。お前と話しするの好きなんだよって言っただろ。それにずっと抱きたかった相手の裸が目の前にあって、ナカに挿れた状態で、これで萎える男がいるか」 「話の中身がひどすぎるんですが……!」 「でもそのわりにはナカが締め付けられて俺ヤバいんだけど?」  葛城が口の端を緩く上げる。筒抜けなのが恥ずかしすぎて晴香は腕で顔を隠そうとするが、両手を封じられたままなので赤くなるのを不様に晒すしかない。  こんなにも場の空気を壊すような事ばかり言っている自分を、呆れ果てるどころか好きだと言ってくれる相手に反応せずにいられようか。 「先輩、手を離してほしいです」 「理由による」  ううう、と晴香は短く呻いて顔を横に向ける。恥ずかしすぎて直視はできない。 「……先輩の首を両腕で絞めたいんですが」 「素直に抱きつきたいって言えよ」  くつくつと笑いながら葛城は手を離すとそのまま晴香の身体を抱き締めた。晴香も口にした通り葛城の首に両腕を回してしがみつく。
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