先輩とわたしの一週間

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先輩とわたしの一週間

 目覚めると葛城の顔が目の前だった。叫ばなかったのを全力で褒めたい。  晴香は驚いたまましばし固まる。現状を把握しようにも寝起きの頭は上手く回らない。葛城の裸の腕にしっかりと抱き締められていては尚更だ。うああ、と堪らず漏れた声は掠れており、おかげで寝ている葛城を起こす事はなかったが、それにより次々と身体の異常に気が付き身悶える。  喉が痛い。声が掠れる。全身の倦怠感は凄まじく、正直起きるのが億劫だ。特に腰から下は使い物にならないのではないだろうか。力が入らないので立つ事は元より、ベッドの上で身を起こせるのかと不安になる。脚の間にはまだ異物が入っているかの様だしで、思い出される昨夜の記憶に晴香は一人死にそうだ。  これまでだって似た様な事は何度かしたけれども、襲い来る羞恥心は過去最高に酷い。最後までしたかどうかの差かと思うが、すぐにそれは違うと気付く。  晴香が目を覚ました時に葛城がベッドにいるのは今回が初めてだ。今までは全部晴香より先に起きてなんなら身支度まで済ませていたではないか。なのに今日は、こうして晴香が起きてもまだ寝続けている。  どうしよう、このままだと先輩もそのうち起きてしまう。そうなった時になんと言ったらいいのかが分からない。え、ここは普通に「おはようございます」でいいの? それとも昨日はお盛んでしたねって違う、これは絶対ちがうやつ!! と晴香の思考は迷走する。  ああでもないこうでもない、と考える事しばし。  とりあえず逃げよう、と晴香は萎える身体に力を篭めて起き上がった。葛城に気付かれる前にとにかく一旦逃げるんだと、ベッドの下に足を降ろすがそのまま前のめりに崩れる。床まで短いダイビングを覚悟したが、強い力で腕を掴まれたかと思えばそのまま引き摺り戻された。葛城の腕の中に。 「お前……大丈夫か?」  仰向けに寝ている葛城の上に寝転ぶかの様な体勢に晴香は顔を上げられない。かといって目の前にあるのは裸の胸であるので、どうにもしようがなく晴香は顔が触れる寸前で宙に止まっている。地味に首が痛くなる。 「おはよう」 「……ございます」 「動いて大丈夫なのかお前? 痛みとかは?」 「ちょっと……だ、だるいかな、みたいな……」  そうか、と葛城は晴香の両頬を大きな掌で挟み込むと顔を自分へと向けさせた。 「まあ、顔色悪くはねえな」 「お……おかげさまで?」 「なあ晴香」 「っ、はい」 「お前やっぱり逃げようとしただろ」 「い……っ、たいいたい先輩いたいいいいいい!!」 「この後に及んでお前は! まだ!!」  頬を挟んでいた掌は拳に代わり、晴香のこめかみを両サイドからグリグリと痛めつける。 「逃げてません! これはほらなんていうか一旦落ち着くためにですよ!」 「足腰立たねえくらい抱き潰してやればよかった……!」 「いやほぼその状態ですよ!? おかげで逃げられなかったのに!」 「やっぱ逃げようとしてんじゃねえか」 「あーっ!! ごめんなさい先輩わたしが悪かったですいたい! あたまが! 割れる!!」  文字通り心も体も繋がったはず、の翌朝にどうしてこんな目に遭わなければならないのか。誰かにぶつけたい怒りであるが、その誰かは残念な事に自分自身に他ならない。 「昔話並の自業自得……!」 「本当になぁっ!」  とどめの一撃を食らい、晴香はとてつもなくくだらない理由でベッドに沈んだ。
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