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ほんの数分、長くても十分程度、のはずだった。が、目覚めた時には外は薄暗く、そして晴香の身体はソファの上で、頭は葛城の太股といういっそ夢であってほしい状況。
葛城はタブレットを手にしてなにやら真剣な顔をしている。
「すみませんなんか爆睡してました」
ノロノロと起き上がり晴香は目を擦る。おう、とだけ答えて葛城は少し乱れた晴香の髪を撫でた。
「爆睡っても二時か三時間くらいだし、昨日はまあ疲れただろうからな」
その疲労の元凶は間違いなく葛城なのだが。しれっとしたその態度に腹が立つが、突っ込むと自分に返ってくるだけなので晴香は別の話題を振る。
「先輩タブレットでなに見てたんですか?」
「んー、通販サイト」
「先輩もネット通販とかするんですね」
「だからお前は俺をなんだと思ってんだよ」
それには答えず晴香は「なに買うんですか?」と気軽に尋ねた。それがまさかの大失敗。
「ゴム」
「ゴム」
「輪ゴムじゃねえ方」
「わっ……かってます、よ!」
なんて物をネットで買おうとしているのか。それとも普通はそうなのか。真っ赤になって狼狽える晴香に、葛城は開いていた画面を見せて平然と問うてくる。
「お前どれがいい?」
「知りませんよそんなの!」
「味とか色々あるぞ」
「味? ……え、味!? なんで味が?」
本気で分からず問い返すと、葛城は一瞬真顔になった後に「まあ追々」とだけ呟いて画面を閉じた。
「食べられるのもあるんです?」
「今度な、今度」
「こ、んど、って」
「昨日がゴールってわけじゃねえからな? あれがやっとのスタートだぞ、お前分かってる?」
「わかっ、てますよ」
「ここ何年かは俺もご無沙汰だったし、ゴムなんて先週買ったのしかねえからなあ……纏めて買うならネットのが便利かなと思ってさ」
そうなんですね、としか答える事ができない。しかし気になる単語に晴香は恐る恐る口を開く。
「まとめて……?」
「いるだろ」
「そんなに? って、え、あれって普通いくつくらい入ってるものなんですか!?」
「たまには自力で調べろ」
「やですよそんなの!」
「お前に使う物なのにな」
「わたしに、ってええええええ」
使うってどう言うことですか? などと浮かんだ疑問は即解決、で一人ソファの上で身悶える。が、その内違う疑問がポンと浮かび晴香はいつもの如くで動揺したまま投げ付けた。
「先輩って毎回ちゃんとゴム着けますよね?」
いつもの剛速球での暴投に、しかし葛城はドン引きした顔を見せる。
「なんだよ、お前の友達ゴム着けねえクズと付き合ってんのか!? いや結婚する気があるとかならいいんだが、そうじゃないならそいつマジもんのクズだぞ? 大丈夫か?」
両肩を掴んで揺すられる勢いに晴香は慌てて訂正する。
「ちがっ、います! 大丈夫ですわたしの友達の話じゃないです! なんかゴム着けたがらない男の人が一定数いるって、前にテレビとか雑誌であったなあって思って!」
職場で他の女子社員と話をしている時にもチラホラ聞いた事があり、それまでそういった話と無縁であった晴香はなるほど男性とはそういう物なのか、とついそんな認識を持ってしまった。
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