水曜日

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 え、と思う間もなく唇を塞がれ、そして口の中に液体が流し込まれる。驚きのあまり噎せ返ると、軽く背中を摩ってくれるがそうするくらいなら事前に一言欲しいと思う。ましてや水なら自力で飲めるのに、と恨めしげに葛城を睨み付けるが相手にされない。平然としたまま「まだ飲むか」と尋ねてくるので、晴香は無言で首を横に振る。いつの間にペットボトルなんて用意していたのだろうかと眺めていれば、ベッド下にコンビニで買ってきた袋が置いてあったのでそこから取り出したようだ。葛城はそのまま袋から小さな箱を取り出して中身を開ける。 「輪ゴムじゃねえぞ」 「――わかってますよ!」  中身の小さな袋を口に咥え、腰に巻いたタオルを外そうとした所で葛城は動きを止めた。どうしたのだろうかと見つめたままの晴香にとんでもない忠告が飛ばされる。 「お前初めてだからあんま見ない方がいいぞ」  見ない方が、というのはつまりはタオルの下にある物の事だ。晴香だって好んで見たいわけではないが、翻弄されたばかりの頭はつい余計な突っ込みを入れてしまう。 「え? なんでですか?」 「グロいの平気か?」 「……まさかのPGー18」 「やってることはRー18だけどな」 「いいかたぁっ!」  叫びつつ晴香は顔を背けた。袋を開ける音が微かに耳に届く中、ふと疑問が浮かぶ。 「せんぱい」 「ん?」 「今日も、その……さいごまで、は」 「しない」 「ですよね」 「お前がしていいってなら遠慮なくするけど」 「謹んで遠慮します」 「そこまで即答されると無理矢理にでもヤりたくなるなあ」  言葉の中身は酷いに尽きるが、もちろんそれが冗談であるのは晴香には分かっている。こちらの反応で遊ぶが為だけの戯れ言だ。それにしたって酷いけれども。 「さいごまでしないの、に、どうしてその……つけるんですか?」  覆い被さってくる葛城に素朴な疑問として投げつければ、軽く目を見開いて固まってしまった。あー、と言葉を探す姿も珍しい。いつでも即レス即反応なのに。 「うっかり入ったら困るだろ?」 「うっかり」  あまりの答えに思わずオウム返しになる。 「え、うっかり? うっかりではいっちゃうものなんですか!?」 「うっかり入るしそれでうっかり子供ができたら大変だろ」 「あ、はい」  そうだこれはつまりは最終的にはそうなる行為なわけで、たしかにうっかり妊娠しちゃったら大変ではあるんだけどでもそれってことは先輩とわたしは――?  思考が空回る。なんだかよく分からない感情がじわじわと広がりかけるが、その前に現実からの衝撃が晴香を引き戻した。 「うわ!?」  背中に手を入れられたと思ったらそのまま軽くひっくり返される。うつ伏せの体勢から腰だけを引き上げられベッドに膝を着く。 「え? これ、せんぱ」 「お前なんか変なこと考えてた?」
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