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最早上書きどころではない。これはもう食べられているのと同じではなかろうかと、そう思うほどに葛城は執拗に晴香の肌を舐め回している。腕は当然ながら、そこから手首を辿り掌、手の甲、あげく指の一本一本を舐めて噛んで最終的には口の中に含む。指先を舌でチロチロと舐められると晴香は何度も体を震わせた。くすぐったくて堪らない。しかしそれだけではない感覚も触れられた場所から全身に伝わる。気を抜くと飛び出そうになる声を必死に噛み殺す姿を、葛城は指を舐りながら楽しそうに眺めている。
「せんぱい……っ、も……やだぁ……!」
与えられる感覚が強すぎて息が詰まる。途切れ途切れの声で必死に止めてくれるよう懇願するが、葛城は聞く耳を持ってくれない。
「上書きするって言っただろ」
「もう消えましたよ……!」
「俺の気が済まない」
なんですかそれ、と叫びかけた言葉は甘い啼き声に変わる。腕の内側に小さくも鋭い痛みが走り、そこでようやく葛城は腕を解放した。半分涙目の状態でそこを確認すれば赤い跡が一つ。所有の証に羞恥が増す中、今度は別の腕を引かれた。そうしてまた葛城に食べられる。
「そっちは無傷ー!」
またあの責めが始まるのかと晴香は慌てて腕を引くが、しっかりと掴まれた状態ではビクリともしない。固く閉じた指先を解かれ親指から順に口に含まれる。
「気持ち悪いか?」
指と指の間にも舌が這う。掌から指先までをゆったりと舐め上げられると堪えきれない声が漏れた。
「く……すぐったい、です」
「まあ指先は一番神経通ってるっていうしな」
五本の指全部を舐め終え、小指の横から掌、手首へと舌が下がってくる。舌を這わせたまま腕の内側に触れ、そこにまたきつく吸い付いた。
葛城が腕を離せばそのまま力なくシーツに落ちる。今の時点でもう晴香は限界に近い。息は荒く熱を持ち、目尻からは今にも涙が零れそうになっている。
晴香も葛城も服は着たままだ。ほとんど乱れてすらいない。それなのにこの場に漂う空気と、そして晴香の体の奥に燻る熱はすでに行為の最中と変わらない。肘まで捲れ上がった両腕は外気に触れ肌寒さを感じるはずなのに、今も熱く疼いている。
晴香の顔に影が落ちる。葛城が涙の浮かぶ目元に唇を寄せそっと舐め取った。そしてそのまま頬から耳元までをくすぐるように舌で撫で、耳朶に辿り着いた所でふ、と息を吐く。
「んんッ……!」
堪らず晴香は背を反らす。シーツとの間にできた隙間に葛城は掌を滑り込ませると、ゆるゆると背中を撫でながら舌で耳を責め続ける。耳の縁を舐めたかと思えば柔く唇で挟み込み、欲をたっぷりと含んだ吐息を注ぎ込めば晴香は逃げるように体を反らした。
「やぁッ!」
シーツから浮き上がり晒された白い首筋。そこに葛城は歯を立てる。痛みを与えない程度に、しかし刺激を耐えられるような弱さではない。
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