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だからボクは「おこ」になる
それから、数ヶ月後。ゆかりんは、また浮気をした。
ボクの知らない男の匂いを付けて帰ってくるようになり……ある日遂に、その匂いの元が、ボク達のうちにやって来た。
初対面の時。ゆかりんが抱き上げたボクにいきなり顔を寄せ、ヒゲのザラザラする肌で頬ずりなんかするもんだから、驚いて肉球でパンチした。咄嗟だったけど、爪は引っ込めたよ。それくらいのマナーはあるんだから。
彼がかけていた黒縁の眼鏡が斜めにズレて、ゆかりんと彼は2人して大笑いした。
ちえっ。こんな筈じゃなかったのになぁ。
「むー、離せよおぉ」
大好物の美味しいオヤツにつられて近づいたら、身体を両手でガッチリ掴まれた。彼はニタリと笑って、ボクに頬ずり。またヒゲがチクチクする。くそう、騙し討ちなんて、卑怯だぞっ! 精一杯の力を込めて、両手の肉球で、彼の肌を押す。
「もぅ、やめなよぉ、たっちゃん」
ボクは必死なのに、彼の隣でゆかりんが笑って見ている。助けてよぅ、ゆかりん!
「かわえーなぁー、ユウちゃんは」
腕の中に閉じ込められて、武骨な指で喉を擽られる。嬉しくなんかないやい。不機嫌なんだという気持ちを込めて、喉をゴロゴロ鳴らす。
「ナアァアアァ……」
彼のせいで、今日もボクはちょっぴりおこなんだ。なのに……もうっ、ニンゲンって、どうしてこんなに鈍感なのっ!
【了】
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