日向のきみ。

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日向のきみ。

すきなひと。 わたしのすきなひと。 昔は隣にいてくれたひと。 いまはすっかりクラスの中心でみんなの輪の中でわらっている。 「ゆーくん。」 ぽそっと小さな声で名前を呼んでみる。 久々に口にした、この愛称が愛おしい。 日陰者のわたしはもうあなたのとなりにいれないけれど。 「…まーちゃん?よんだよね?」 彼がこちらに近づいてくる。 ぱっとクラスメートの視線がわたしに集まる。 「なっなんで聞こえたの…。」 あぁ…何年ぶりに話すんだろう。 君がまだ日陰にいた頃だから…もう三年はたっただろうか。 「えっ、いつもまーちゃんみてるから。」 周りがヒューヒューと囃し立てる。 と同時に私自身の体温が上がるのを感じた。 なんでそんなこと平気でいってのけるのか。 中身までまるで変わってしまったようだ。 「まーちゃん?」 また名前をよばれ、自分の体温の上昇に耐えられなくなって私は教室を飛び出す。 屋上まで目的もなく走ったあと 振り返ると彼がいた。 「まーちゃん、相変わらず足遅いね。」 笑う顔があのときのままで心がギュッと締め付けられる。 「ごめんなさい…なまえよんでしまって。」 「なんでそんな敬語なの。…用事はなんだったかな?」 用事なんかない。 ただ物思いにふけってよんでしまっただけだから。 「ごめんなさい…きもちわるかったよね。」 そのまままた逃げようとする私の手をパット捕まれる。 「嬉しかったよ。」 え? 「嬉しかったよ。久々によんでくれて。君のために俺、つよくなったから。」 私のために?つよくなった? 彼の言ってることを理解するのには時間がかかった。 「俺はね、ずっと弱かったから。君を守るためにつよくなった。でもそしたら君との距離ができてしまったようですごく寂しかったんだ。」 まっすぐな視線で彼は言う。 あぁ。あの時となにもかわらないじゃない。 中学生のころ教室のすみっこで支えあっていた日陰者の私たち。 君は変わってしまったと思ったけど。 あの頃のまま。 そのまま。 「だから、なにかあったらすぐ俺をよんでね。…いまなら助けられるから。」 もう私と同じいじめられっ子で逃げてばかりの彼はいない。 けど、あのときのまま優しいままで。 「ありがとう…。」 「あっ!でもさ、」 彼が続ける。 「なにもなくても、話しかけてね?俺も話しかけていいかな…話したいんだ。」 恥ずかしそうな顔をする彼が愛おしい。 「当たり前じゃない。」 二人仲良く教室に戻る。 この後絶対冷やかされるんだろうけど、たまには日陰からでて青春するのもいいのかもしれない。
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