かぐや姫、マッチングアプリ再開したってよ

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かぐや姫、マッチングアプリ再開したってよ

 ある日、かぐや姫は見た。  かぐや姫の部屋に置き忘れた側近のスマートフォンに届いた通知を。  かぐや姫が先日アンインストールしたマッチングアプリからの通知を。   『先日はありがとうございました。とても楽しかったです。もしよろしければ、もう一度お会いできませんか? お好きだと言っていた紅茶の美味しいお店を見つけたので、是非ご一緒したいです』    かぐや姫は、グッと背筋を伸ばした後、深呼吸をする。       「側近んんんんんんんんんん!!」    城中に、かぐや姫の声が響いた。  廊下を早足で歩く足音のした後、かぐや姫の部屋の扉が開かれ、側近が入ってきた。   「はいはい。どうされました、姫様」   「こ、こ、こ、これはいったいなんなの!」    かぐや姫は、側近のスマートフォンを側近へと突きつけた。   「あー、どこに置き忘れたかと思っていたら、姫様の部屋だったんですね。見つけていただき、どうもありがとうございます」   「いえいえ、今度から気を付けてくださいね……違あああああう!」   「はい?」   「置き忘れてたことはどうでもいいのよ! これ! これよ! これを説明なさい! あなた! 殿方と逢引したんですの!?」   「え? はい。まあ」   「はああアアああアアああアア!?…………はァ」    かぐや姫は魂が抜けたような表情で、直立不動のままパタンと倒れた。   「危ない!」    側近は急いでかぐや姫の元へと駆け寄り、かぐや姫の手から側近のスマートフォンを取り上げた。  最近のスマートフォンは頑丈とはいえ、高いところから落ちても確実に無事である保証はない。  かくして、スマートフォンは守られた。    ゴンッ。   「いったああああい!?」    かぐや姫は無事に床へ頭をぶつけた。   「大丈夫ですか」   「守る対象間違ってない!?」   「姫様、全身バリアー張られているから怪我しないじゃないですか。スマホは壊れて買いなおしになると、10万円ですよ、10万円。スマホ守るに決まってるじゃないですか」   「むう……何か釈然としないわ。……はっ、そんなことより!」    かぐや姫は、呼び出した理由を思い出し、脳の中のあれこれをいったん捨て置く。  そして、側近に向かって華麗な土下座を決めた。   「殿方とマッチングして逢引する方法……教えてくださあああああい!」   「姫様、頭をあげてください。ご自分の立場をご理解いただいてますか?」   「教えてくれるまではあげません!」   「こんなところを誰かに見られたら、一国の王女に土下座させた不敬者として、私が処刑されます。私が可愛そうなので、どうぞ頭をあげてください」   「前々から言おうと思っていたけど、あなたは不敬者よ。間違いなく」    土下座をやめ、服を整え、かぐや姫は立ち上がる。  そして、期待を込めた瞳で、側近を見つめていた。    側近は、小さくため息をつき、マッチングアプリに登録した側近のプロフィールを表示して、かぐや姫に見せる。   「そもそもマッチングアプリは、女性にたくさんお誘いが来るようにできているんですよ。私のを参考に、無難な写真とプロフィールにしておけば、逢引のお誘いなんていくらでも来ますよ」   「ふむふむ。これを参考にすればいいのね。ありがと側近! やってみる!」    かぐや姫は上機嫌で、マッチングアプリを再開した。        それから、一週間が経過した。   「来ないわ」   「えぇ……」    かぐや姫は、自室のベッドの上で、スライムのようにぐったりしていた。  顔だけ側近の方に向け、恨みがましい瞳で側近を見つめている。   「姫様、少し、プロフィールを拝見しても?」   「いいわよ。はいどうぞ!」    そこには、無難なプロフィールが書かれていた。        側近のものと全く同じ文面の、無難なプロフィールが。    天才的頭脳を持つかぐや姫の記憶力は、あの僅かな時間で側近のプロフィールを一言一句記憶し、一言一句違わない文章をかぐや姫のプロフィールとして登録することに成功していた。    かぐや姫の登録した写真と比べた時、誰がどう見ても写真に写る人物とは別人のものだと分かるプロフィールがそこに書かれていた。       「姫様って、天才だけど馬鹿ですよね」   「なによ! どこが馬鹿だっていうのよ! あーもう、この糞アプリ!」    かぐや姫の苦悩は続く。
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