かぐや姫、地球滅ぼすってよ

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かぐや姫、地球滅ぼすってよ

「側近。私、地球滅ぼすわ」   「待ってください。何がどうなってそうなったんですか。普通は流れ的に、『かぐや姫、婚活パーティ行くってよ』とかじゃないんですか?」   「何を訳の分からないことを言ってるのよ」    かぐや姫は、地球破壊ミサイルの起動スイッチを手に持ちながらそう言った。  それを、側近が珍しく慌てた表情で止める。   「とにかく落ち着いてください。まず、地球を滅ぼす経緯からお教えください」   「だって、ちっともいい殿方と出会えないじゃない」    完全な八つ当たりじゃないですか。  そう言おうとした側近は、口をつぐんだ。  かぐや姫の手には地球破壊ミサイルの起動スイッチがあるのだ。  迂闊なことを口にすれば、かぐや姫が本気で押すだろうと容易に予想できた。  地球には、側近がマッチングアプリで知り合い、デートを重ねている殿方がいる。  ゆえに側近としては、絶対に押させるわけにはいかなかった。   「姫様、わかりました。私が、全力で姫様と地球の殿方がデートできるように支援いたします。ですのでどうか、そのスイッチをこちらにお渡しください」   「……そんなこと言って、以前、貴女から教わったプロフィール通りに書いても、誰ともマッチングしなかったじゃない」   「あれは、私用のプロフィールで、姫様向けのプロフィールになっていなかっただけの話です。私が本気を出せば、姫様に殿方の十人や百人をあてがうことなど、余裕です」    かぐや姫は、なおも半信半疑の目を向ける。  なぜならかぐや姫は、普段から1度の失敗も許されない、高度な業務を行っている。  過去に1度失敗した、側近からの提案も、素直に受け入れることができなくなっているのだ。   「ちなみに私の実績ですが、500以上のいいねをいただき、そのうち100人の殿方とやりとりをさせていただきました」   「よろしくお願いします!!」    かぐや姫は、華麗なる土下座を決めた。  起動スイッチは無事に側近の手に戻り、かぐや姫の手の届かない鍵付き倉庫の奥の奥へ、厳重に保管された。  なお、かぐや姫が起動スイッチを手にすることを防げなかった守衛は、減給処分となった。        そして1週間後。   「ねえ側近、まだなのー?」   「姫様、マッチングアプリの出会いを焦ってはいけません。マッチングアプリの殿方は、サクラという女性を偽る不届き物を恐れ、逢引のお誘いも慎重になっているものです。ですので、実際に逢引できるまで、1ヶ月は考えておいてください」   「サクラ……。地球の殿方も大変なのね。わかったわ、1ヶ月ね」    側近は、心の中で汗をだらだらと流していた。  というのも、かぐや姫にまともな殿方からのいいねが来ないのだ。  側近の感性をもって、どう考えても恋人関係ではなく、都合の良い関係を望んでいる殿方からのいいねしか来ないのだ。    プロフィールの写真も悪くない。  むしろ美人の類だろう。  プロフィールも文章も側近の自信作だ。  月の姫だとか、年収がとんでもないだとか、敬遠されそうな要素もすべて削除した。    それでも、これだ。   「……これが噂に聞いた、ダメンズを引き寄せる女か」   「? 何か言った、側近?」   「いえ、何も」    側近は焦っていた。  もしも、1ヶ月経っても2か月経っても逢引できなければ、かぐや姫は今度こそ地球破壊ミサイルの起動スイッチを押してしまう確信があった。   「……かくなるうえは」        1か月後。   「えっと、かぐやさんですか?」   「は、はい!」    かぐや姫は、無事に地球の殿方と、逢引を楽しんでいた。  自分に好意を向けてくれることが嬉しくて、逢引のコースを考えてアプローチしてくれるのが嬉しくて、自分を月の国の姫ではなく1人の女性として見てくれるのが嬉しくて。   「これは、側近に特別ボーナス出さないとねー」    すっかり浮かれて、楽しいひと時を過ごしていた。        一方の側近はというと。   「もしもし、こちらレンタル彼氏派遣サービスです」   「側近です」   「あ! いつもお世話になっております」   「今後の確認ですが、今回のデートでは姫様を満足させていただいて、その後もマッチングアプリでメッセージを継続。2回目のデートで姫様に不信感を抱かせる態度をとっていただき、姫様側から少し合わなかったなーと自然消滅する感じでお願いします。料金は言い値でお支払いしますので」   「もちろん、承知しております」   「いいですか。くれぐれも、姫様にこのことがバレない様にしてくださいね……。バレたら破滅ですから……私も地球も」   「も、もちろんです!」    地球を救うことに奮闘していた。
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