かぐや姫、マッチングアプリを語るってよ

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かぐや姫、マッチングアプリを語るってよ

「姫様、これは一体何でしょう?」    側近は、かぐや姫へ一冊の本を突き付ける。   「ああ、私の書いた『マッチングアプリマスターKAGUYAが語るマッチングアプリ超攻略』ね。それがどうかした?」   「逆にどうもしないとお思いですか?」    かぐや姫がマッチングアプリで初めてマッチし、殿方と逢引をしてから一か月が経過した。  その間にも、かぐや姫は何人もの殿方とマッチし、逢引することに成功していた。  その逢引相手全員が、側近の雇ったレンタル彼氏なのではあるが、当のかぐや姫本人が知る由もない。  度重なる逢引の成功は、かぐや姫にマッチングアプリへの自信を与えた。  同時に、心優しきかぐや姫は、私だけがマッチングアプリの恩恵を受けるのではなく、皆も恩恵を受けるべきだと考えた。  結果、かぐや姫は、自身の持つノウハウを広めるべく、本を出版することにしたのだ。   「能力がある人間は、その能力を行使して皆を幸せにする義務があるのよ」    ドヤ顔で語るかぐや姫を前に、側近は頭を抱えた。   「そうだ、側近。貴女にも教えてあげるわ。この私の、超絶テクニックを!」   「あ、はい」    かぐや姫は、ご機嫌で本を手に取り、ページをめくる。   「まずはマッチングアプリの選び方なんだけど」   「え、そこからですか?」   「まあ側近、何を言っているのかしら。一番重要なところじゃない」    側近は、かぐや姫のマッチングアプリ使用状況を概ね把握していた。  かぐや姫の持つスマートフォンには、アプリの使用状況を収集するための監視ツールが入っており、その収集した情報はすべて側近の元へ集まっているのだ。  だからこそ、かぐや姫が一種類のアプリしか使っていないことを知っており、首をかしげる。   「まず、マッチングアプリにはいろんな種類があってね、目的に合わせたものを選ぶのが重要なの」   (……まさか)   「例えば、結婚相手が欲しいのか、恋人が欲しいのか、友達が欲しいのか、遊び相手が欲しいのか。……まあ、友達と遊び相手って、同じ意味だとは思うんだけど、とにかくこの四つがあるのよ! 結婚や恋に抵抗があれば、まずは遊びから始めるのがいいわね!」   (……間違いない。……自分が書いたはずの文章なのに、自分で意味を理解できていない。……つまり)   「次に、年齢層。何歳くらいが使っているかも重要ね。例えば、二十代が多いアプリを三十代や四十代が始めても、マッチする確率は少ないわ。同世代が多いアプリがお勧めね!」   (……この女……ググって出てきた情報を、さも自分の知識のように書いている!)    世界にはいるのだ。  知識を聞いたり読んだりするだけで満足し、行動せず、それによって得た知識をさも自分の知識のように披露する人種が。  自分の行動にも経験にも基づかない薄っぺらい知識を、ドヤ顔で語る人種が。  その名も、ノウハウコレクター。   「それでね……あら、どうしたの側近?」   「いえ、何も」    その場に崩れ落ちた側近に、かぐや姫は心配そうに声をかける。  苦しそうな人間を見ると、すぐに心配してしまうほどかぐや姫は純粋で優しい。  だからこそ、純粋だからこそ、この悪しき事態は起きたのだ。  優しさに、能力が追い付いていないのだ。    側近は、心を鬼にして、かぐや姫の暴走を止めることを決意した。  たとえそれが、かぐや姫の心に傷をつける行為であっても。   「……姫様」   「あらなに側近? もしかして、この本欲しくなっちゃった? いいわよ、側近にはいつも助けてもらってるし、一冊ならタダであげちゃうわ」   「……その本に書かれている、遊び相手が欲しい、なのですが」   「ええ」   「手軽にふしだらな行為ができる相手、という意味ですよ?」   「え?」   「そして本の中では、姫様はまず遊び相手から始めるのがいい、と書かれています。それはつまり……」   「私が手軽にふしだらな行為をすることを推奨していることに……?」   「そう読まれても、仕方ないですね」       「い」   「い?」   「いやああああああああああ!!??」    一国の姫が、ふしだらな行為を推奨した。  その事実は、かぐや姫の姫としての自尊心を大きく傷つけ、またふしだらな行為をかぐや姫自身がやっているのではないかと国民に誤解された可能性に気づき、もだえ苦しんだ。   「ちがううう!? 私、そんなふしだらな女じゃないわよ!?」    そして本は即座に回収され、既に読み終えた国民には、緘口令が敷かれた。    これを教訓に、かぐや姫は二度と付け焼き刃の知識を披露しないと、固く誓った。  こうしてまた、かぐや姫は名君に一歩近づいた。
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