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かぐや姫、側近にお休みをあげるってよ
「姫様、来週なのですが、二日ほどお休みを」
「もちろんいいわよ」
「……即答ですね」
「当り前じゃない。休暇は従業員の権利よ。うちは、私的な理由で休暇を取り上げるようなブラック組織じゃないわ」
かぐや姫は、側近の願いを快く承諾する。
かぐや姫の城は、ホワイトな労働環境で有名だ。
それゆえ、月に住む誰もが憧れ、誰もが目指す就職先だ。
休暇だって自由に取れる。
「では、よろしくお願いします」
側近は、有給休暇申請書をかぐや姫に提出し、かぐや姫は滑らかな動作で受け取り、承認の判子を手に取る。
『休暇理由:彼氏との一泊旅行のため』
そして有給休暇の理由を見て、却下の判子に持ち替え、押印する。
「はい、どうぞ」
「ちょっと待ってください。今何が起きたんですか?」
側近は、つっかえされた申請書とかぐや姫の顔を交互に見る。
かぐや姫はほっぺたを膨らませて怒っていた。
「……てない」
「はい?」
「彼氏ができたなんて聞いてない!!」
「まあ、言ってないですからね」
かぐや姫はくるりと椅子を回転させて、側近に背中を向ける。
「そんなふしだら理由で、休暇なんて認められません!」
「思いっきり私的な理由じゃないですか……」
「わーわー! 聞こえませーん!」
「子供ですか……」
さて困ったと、側近は頭をひねる。
既に側近の彼氏がデートプランを考え、ホテルの予約も完了していると聞いている。
ここで休暇が取れなくなると、側近の彼氏に迷惑が掛かってしまうのだ。
「姫様、これは姫様のための休暇なのです」
「……私のため?」
かぐや姫はくるりと椅子を回転させて、側近の方へ向き直る。
その表情には疑問が浮かんでいる。
「姫様ほど魅力的な方であれば、近々良い殿方が見つかり、お泊りデートをすることもあるでしょう」
「え? あ、そ、そうかしら……?」
「はい、間違いなく」
「そ、そうよね。……でへへへ」
だらしないかぐや姫の表情に、側近は勝利を確信した。
「しかし、男は獣と言います。お泊りデートは、私たち女にとって、それはそれは恐ろしいものになることがあるのです」
「そ、そうなの……!?」
「そこで! 私が先にお泊りデートをすることで! お泊りデートにはどんな危険があって、どうすれば安全で楽しいデートにできるかを調べるのです! そう、これは、姫様の未来のデートを作るための調査なのです!」
「な、なるほど!」
側近の差し出した二枚目の有給休暇申請書に、かぐや姫は今度こそ承認の判子を押印した。
「期待しています、側近」
「お任せください、姫様」
こうしてまた一つ、かぐや姫と側近の間に、熱い友情が結ばれた。
主従を超えた、熱い熱い友情が。
「とはいえ、一度却下されたのはなんだか癪に障りますね」
側近の有給休暇当日。
かぐや姫は、側近不在の部屋で、職務を全うしていた。
「側近、今頃楽しんでいるかしら」
優しい瞳を窓の外に向け、側近のことを考えていると、部屋の扉がノックされる。
「あら? 誰かしら。側近以外でこの部屋を訪れる人なんて、滅多にいないはずだけど」
そして扉が開き、膨大な書類を持った部下が入ってきた。
「へ?」
「失礼します。こちら、側近様からの預かり物です。今日中に姫様のご判断が必要な書類ばかりとのことなので、早急にご対応をお願いします。失礼します」
部下の去った部屋。
残りの時間、ずっと仕事をし続けても、日付の変わるぎりぎりまでかかるだろう書類の束を、かぐや姫は見つめていた。
「側近んんんんんんんんん!!」
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