二人の予定

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二人の予定

――司からの連絡がない日々が3日続いた。そして、ある日の朝方、ソファーの上で倒れ込んだまま、寝ていた俺の傍で突然携帯電話が鳴った。目を覚ますと、慌てて電話に出た。受話器からは彼の声が聞こえた。 「――ごめん。寝てたか?」  久しぶりに聞く司の声に自然に胸がときめいた。何から話そう、俺は起きたての頭で必死に考えた。司は溜め息をつくと、いきなり例の噂について否定した。 「お前に話したい事がある。聞いてくれるか?」 「なっ、なんだよいきなり……?」 「例の噂だけどアレは気にするな。あんなのはただのデマかせだ。俺にはお前しか居ない。わかるだろ?」 「ッ…!? 司…――!」  彼の一言で、胸につかえていた悩みが吹き飛んだ。そして、彼の本心を聞いてホッと一安心した。 「バカ! そんなの言わなくてもわかる! それに、俺だってそんな噂を信じるわけないじゃん! 大丈夫だから俺の事は心配しなくて良いよ!」  受話器越しで明るく振る舞うと、司は頷いて返事をした。そしてクスッと笑った。 「お前が俺の恋人で良かった。良き理解者に恵まれて俺は幸せ者だ。帰ったらお前と、うんと愛し合わないとな。もー参ったって言わせるくらいにめいいっぱい抱いてやるから覚悟しておけよ?」 「ッ…! 司のバカッ…! 朝から一人で惚気(ノロケ)るな! 聞いてるこっちが恥ずかしくなる!」 「なんだ? 照れてるのか?」  受話器越しに顔を赤くすると、恥ずかしそうに言い返した。司は相変わらずの様子だった。その彼の変わらない様子に俺も心が安心した。  どうも話を聞くと熱愛報道があった噂は、司は昨日まで知らなかったらしい。さすがまわりに振り回されない男だと感心するが、どうせなら海外に行っている間、連絡の一つくらいくれても言いだろと電話越しでキレた。すると司は受話器越しで笑って応えた。 「やだよ。電話したらお前に会いたくなるだろ? 俺だってお前に会うのずっと我慢してるんだ。お互い様だろ?」  司は相変わらず大人の狡い言い訳をした。俺は会いたい気持ちをグッと抑えた。 「わかったよ。じゃあ、今年のクリスマスお前と一緒に過ごせるか…――?」  子供っぽく拗ねて聞くと司は「ああ」と一言返事をした。その一言に急に嬉しくなった。 「ホントにホント? 嘘じゃない?」 「ああ、本当だとも。お前の為にも早く仕事を終らすから安心しろ。俺だってクリスマスくらいは、お前と一緒に過ごしたいさ」 「うん、わかった……! 俺も楽しみにしてる!」 「それと一希…――」 「何?」 「愛してる」 「司……! うん、俺も愛してる…――!」  最後に司が愛してると言ってくれた。普段は電話じゃ、なかなか言わないのに。そのたった一言で胸の中が幸せいっぱいに満ちた。最後、受話器を切る間際にたまには俺にメールくらいしろよと言って、電話を切った。  幸せな気持ちになると、携帯電話のカレンダーを開いて日付をマルしてメモした。そして、ソファーの上でガッツポーズをした。たった小さな事でも、幸せを感じた。司とクリスマスを一緒に過ごすことに意味がある。そして、幸せな気持ちで胸を弾ませながら再び眠りについた――。
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