諸刃

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 たった一つ言えることは、司の携帯電話にあの女が出た事は確かだった。地面に立っているのに、地面がないような底無しの絶望感に俺は駆られた。写真には司があの女から贈られたセーターを着ていた。俺は、その場でショックを受けると言葉を無くして、呆然とした顔で佇んだ。 「――何だよ司の奴。女からセーター、ちゃっかり貰っちゃって……。俺が編んだセーターなんか、もういらないじゃないか。せっかく編んだのに俺、バカじゃん……!」  そこで急に悲しくなると、その場から逃げるように立ち去った。そこからの記憶は曖昧で、自分でもよく覚えていなかった。気がつけば、マネージャーが運転する車の中で心を閉ざして泣いていた。信号機が青になると、車は交差点の前で止まった。マネージャーは心配すると大丈夫かと心配そうに尋ねてきた。余りにも辛すぎて涙が溢れた。心が空っぽの状態で窓の外を眺めながら小さく呟いた。 「もう駄目かもしれない…――」  そう言って呟くと、押し寄せる深い悲しみを堪えて家に辿り着いた。
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