諸刃

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 司がいない家に1人で帰宅した。本当だったら今頃、彼が玄関で暖かく迎え入れてくれるのに……。  今は家には誰もいない。そのシンと沈まり返る部屋は冷たく感じた。俺と司は一緒に住んでいる。2人で住んでいるから、1人だと部屋が何故か広く見える。擦り切れた心を抱えながら寝室に入った。そして、疲れてベッドの上に倒れると昨日、編み終えたセーターがベッドの隅に落ちていた。彼にあげる為に頑張って編んだセーターを手に取るとそれをジッと見つめた。  司への愛を込めながら、ひと針ひと針編んだのに、今は水の泡だ。司はあの女から貰ったセーターを着ていた。そう思うと急に悲しくなって、掴んだセーターをぎゅっと握り締めた。 「…もうこんなの必要ないじゃん。だって司、あの女からセーターを貰ったし。俺が編んだセーターなんかもう要らないよな…――」  いつかはこんな日が来ると思ってた。恋愛なんて、一時みたいなものだ。いつかは別れがくる時がある。どんなに相手を好きでも、どんなに相手を深く愛していても、気持ちが冷めてしまえば、あっという間に終わりが来る。  どっちかが愛がなくなれば、愛は幻の様に消える。きっとあの噂は本当なのかもしれない。俺達は男同士で愛し合っている。普通だったらそんなことはありえない。でも司は俺を受け入れてくれて愛してくれた。きっと司は、心の中では無理してたのかもしれない。ましてや男女の恋愛なんかじゃないんだ。別れだっていつ来るかわからない。  未来の保証なんて無いのに……。
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