初雪

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初雪

――あのあとカヲルさんは俺を励ますとクリスマスを一緒に過ごそうと誘ってきた。クリスマスの日に、知り合いのモデルや、業界の人達が集まって、ホテルでイベントパーティーが開かれるらしい。はじめは乗る気ではなかったが、彼の話を聞いているうちに気晴らしにパーティーに出る事にした。  そして、クリスマスの当日。俺はカヲルさんと一緒にホテルで開かれたイベントパーティーに出席した。携帯の電源はあれから切ったままだった。司はやっぱりクリスマスの日には帰ってこなかった。 ――どうせ今頃、あの女と一緒にいるんだ。彼女から貰ったセーターなんか着て喜んでるんだきっと。俺はソフトドリンクを一口飲みながらそのことを考えた。本当だったら今年もクリスマスを司と一緒に祝うはずだったのに。  一人で居ると急に虚しい気持ちに襲われた。会場の片隅でポツンと居たら、知り合いのモデル仲間から声をかけられた。俺は気持ちを切り替えると、まわりに明るく振る舞ってみせた。  今年のクリスマスは、去年に比べて少し寒かった。まるで雪が降るような気配を感じた。ホテルで開かれたパーティー会場はそれなりに賑わいをみせていた。右手首に嵌めていた腕時計を何気なく見ると、時計の針は夜の9時を回っていた。賑やかな会場を抜けると廊下でモデルの女の子2人が仲良く話しをしていた。 「見て見て! 外、雪降ってるよ! もしかして初雪じゃない!? 一緒に見にいこうよ!」 「わ~! ほんとだぁ、見に行こう!」  女の子達は初雪を見に外に出て行った。俺は近くで話を聞くと、何気なく外の空気を吸いに行くため外に出て行った。外は雪が深々と降っていた。今年初めての初雪は皮肉にもクリスマスの日だった。今でも体が寒いのに、雪が降ったら余計に寒くなる。外の景色を一人で眺めながら悴んだ手を白い息で温めた。そして足早に会場に戻ろうとした。でも戻る途中で、不意にそこで立ち止まった。 「……そういえばセーター。まだあのセーター、下に落ちてるかな?」
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