71人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
司にあげるために作ったセーター。もういらなくなったセーター…――。
複雑な気持ちを胸の奥に抱えたまま途方に暮れた。
雪はパラパラと降り始めたばかりだった。今急いで家に着けば編み直せる。でも、雪で湿ったセーターは、今日中じゃ編み直せない。俺は捨てたはずのあのセーターを本当に捨てる事はできなかった。あれには司への愛が込められていた。
あの時、窓から捨てたセーターを拾いにいくため、家に戻ることにした。タクシーを呼ぶと、慌てて乗り込んだ。するとカヲルさんが呼び止めてくると、俺のコ-トを持って現れた。
「リョウちゃん、帰るのね。はい、あなたのコ-ト持ってきたわよ」
「カヲルさん…俺、やっぱりあのセーター……!」
そこで言いかけると、カヲルさんは俺が拾いに行くのをわかってたような感じで話してきた。
「ほら、今からでもまだ間に合うわ。せっかく編んだセーターを捨てるには勿体無いわよ」
「カヲルさん…――!」
「リョウちゃんオカマを舐めないでよね。そんなことお見通しなんだから! さあ、あとは私に任せて早く行きなさい!」
「あっ、ありがとうございます……!」
カヲルさんは優しかった。彼に背中を押されると、急いでタクシーに乗って家に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!