愛は雪さえも…

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愛は雪さえも…

――雪が完全に降り積もるまえに急いで家に着いた。部屋から懐中電灯を持ってくると直ぐにマンションの下の周辺をくまなく懐中電灯を照らして歩いた。自分の家の下に近い周辺はとくにライトを照らしながら、目を凝らして必死に探した。  ゴミ置き場も全部見て周り、マンションの管理人の家にも訪ねた。そんな事をしているうちに時計は夜の22時を回っていた。一時間近く、外でセーターを探しまわっていたら、身体もスッカリ冷えてきた。なんでこんな事してるんだろうと、自分のバカさ加減に正直呆れた。でもいくらあきれても、あのセーターだけは諦められなかった。悴んだ手を息で温めると、そこで泣きそうになりながらセーターを必死に探した。 「司のセーター何処にいったんだよ…!? 頼むから出てきてくれよっ!!」  今にも泣きそうな気持ちを堪えるとライトを照らしながら必死で探し回った。でも、いくら探しても司のセーターは結局みつからなかった。地面に座り込むとそのまま、強い罪悪感に駆られた。 「なんで捨てたんだよ、バカだ俺…――!」  抑えていた気持ちが胸の中で溢れると、思わず泣きたくなった。どんなに後悔しても、もう無理なのに。自分のつまらない嫉妬が、大切なものを手のひらから無くしてしまったような気がした。 「司に会いたい…! 俺を一人にしないで…――!」  大切な時に恋人(つかさ)と一緒に過ごせないなんて。それなら一層、最初から彼に無理を言わなければ良かった。そしたらこんな惨めな気持ちにもならなかった。  冷たい雪が降る中で彼への想いが溢れると、しゃがみ込んだまま泣き続けた。すると背後で、人の気配を感じた。そして、泣いてる俺に声をかけてきた。 「――何探してるの?」 「ッ…青いセーターです……。大事な物なんです…。さっきから探してるのに全然みつからなくて、あれがないと俺…――!」  自分でもわけがわからず涙が溢れた。あの時、自分で捨てた事に酷く後悔をした。もうあいつとあの女の噂なんてどうでもいい。司が傍にいてくれたら、俺はそれだけで幸せだった。  つまらない嫉妬で大切な彼を失いかけている。もう何もいらないから俺にもう一度、司を下さい。空から降る冷たい雪を見ながら、天の神に祈る気持ちで心の中で呟いた。
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