肩の凝るしごと

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肩の凝るしごと

 カタカタ......カタカタカタ......「肩」 「はいっ!(もみもみもみ)」  わたしはたかき様のお屋敷で働く肩もみメイド。執筆中のご主人様に「肩」といわれたら、すぐに肩をお揉みするのがわたしのしごと。  もちろん強すぎてはダメ。でも弱すぎると強めの「肩っ!」が返ってくる。  もしも3回目の「肩っ!」、ご主人様の腹からの「肩っ!」が聞こえたときは、わたしがお屋敷を去るときだ。  わたしは半年前に左肩の担当からスタートして、いまは月・水・金のフルタイムで時給27,000円。  「肩っ!」を3回聞いた先輩が2人引退して、いまは両肩の担当を任されている。  カタカタ......カタカタカタ......「かた――」 「(サッ)」 「――あげポテト」 「(......スッ)」  このようなフェイントがでると、執筆作業に飽きてきた合図だ。  いま慌てて出かけたメイドも、15分後には泣いているだろう。  純粋で気遣いのできる人間ほど『ご主人様にお伺いする』という単純な手順を、独断ですっ飛ばしてしまう。  並みの新人おやつ係なら『堅あげポテト』を右手にぶら下げて戻ってくるだろう。水曜日のおやつは『じゃがりこ』か『チョコパイ』だとも知らずに。  けっきょく新人は、右手に『ピザポテト』左手に『チョコパイ』をぶら下げて戻ってきた。  あとでこっそり聞くと、右手が、左手はとして(袋は別で)購入したらしい。  ドジっ娘の功名。メイドの素質あり。  入れ替わりの激しいこの世界。  どうやら長くつきあえる後輩にめぐり会えたみたいだ。  今日は本当に疲れた。帰りはいつものマッサージ屋によってほぐしてもらおう。  おしまい
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