7月20日(火)【01】きをつけい!

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 力ずくで空けられたぼくの机に尻がのっかる。先ほどのバレリーナより細くて白い足が机から垂れ下がり、日サロタレントの歯みたいな色の上靴が2足、宙に浮いている。 「お前に野球のゲームやらしたるから」  お腹にふくらんでいた高揚感が冷める。 「今日は無理。他に約束してるから」 「誰や?」  他人のれんらく帳まで盗み見するタイプの人間だ。 「ケイタ」 「あの閉じてんじゃねえかってくらい目が細いゲームオタクか。あんなやつと遊ぶ方がええんか」  当たり前だ、と良心は言わせてくれない。 「先にケイタと約束したから、仕方ない」 「ほー。じゃあ明日はどうや」 「明日も無理。約束してるから」  嘘をついた。自己防衛の嘘も良心は見逃さない。お腹がへこみ汗が垂れる。 「じゃあ明後日」  遠ざかるほどに追いかけてくる。 「明後日か。まあ用事が無ければ」 「用事なんてないやろ。じゃ、明後日な。絶対やぞ」  嘘で痛んだ良心への追加攻撃。セールスマンに20万円ミシンを買わされた母に文句をいう資格は、いまのぼくには無い。公立小学校の生徒に与えられたおよそ40日ぶんの自由のうち、1日ぶんを割いて、耕地(こうち)キヨフミに捧げる罰を、ぼくは受け入れた。 「こら耕地(こうち)くん。初乃(はつの)くんの机から降りなさい」  数人の女子生徒と話していた先生が、キヨの悪行に気付いた。 「すごい音がしたけど、もしかして人のランドセル投げたりしてないよね」  している。そして知っている。だが先生はぼくに、目撃証言を求めない。 「投げてませーん。置いただけでーす」と、から返事したキヨは、また電話するからなと言い残して教室から出て行った。  帰る準備は終わった。が、帰り道でストーカー気質のあるキヨに見つかるおそれがあるため、もう一度だけ忘れ物をチェックをする。さらに用心をかさね、正門から学校を出た。
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