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13話 好きじゃないけど友達になってみた。
私は日生くんと別れてから乗る車両変えた。元から友達だったわけでもないのだから、別れたばかりは気まず過ぎる。プリントを配るときも班で話しかけるときも、日生くんの名前を呼ばなくなっていた。呼ばないようにしていた。付き合う前のように無意識で名前を呼ぶこともなくなっていた。
つまりは極力関わらないようにしていた。
日生くんも私と関わろうとはしないし、同じ気持ちなんだと思う。
嫌いではなかったけど好きではなかったんだし、そんな気持ちで付き合い続けていることは心苦しかったからこれでよかったはず、だった。だけど、そう思っていたのは、別れてからLIMEグループのスクショを見るまでの間だけで、それから、あまり時間はかからなかった。
帰りの駅のホームで、私は別れを告げた場所と同じ場所へ日生くんを呼び出していた。
「初詣のときにもらったプレゼント、本当はクリスマスのときにくれるはずだったんだよね? もう年明けてたから、店員さんにちょっとだけ無理を言って、これクリスマス用に包んでもらったんだ」
私は小さな紙袋を日生くんに渡した。
「よかったのに、お返しなんて」
「あのプレゼント私が持ってるだけじゃ成立しないと思って」
私はLIMEグループのスクショを見た後、日葵にお願いをして、プレゼントを買ったお店をつきとめた。そして、そのお店で私が持っていない方の欠けたハートのネックレスを購入した。
日生くんはその紙袋の留めてあったテープを剥がすと、隙間から中を覗いた。
「あ、うん。そうだね……」
「日生くんも買ってるとは思うんだけど、ちゃんと私が買ったものを持ってて欲しいと思って」
「実はこれ買ってないんだ……お小遣いが足りなくて、一つしか買えなかったんだよね」
「ちょうど良かったのかな……? プレゼント交換みたいで」
日生くんは僅かに頷いた。
「あの! やっぱり、もう一度付き合わないかな? 私、ちゃんと好きになれるように……頑張るから!」
私は日生くんの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「急にどうして……僕を一度振ったんだよ……今さら……」
あっけにとられた表情をした日生くん。それもそのはずだ。振られたばかりの相手に、今度は告白されているのだから仕方がない。
「あれから……LIMEグループの日生くんたちの会話を全部見たんだよね。そしたら、自分が凄く悪人に見えちゃって……日生くんは私のために頑張ってくれていたのに……だから! もう一度、私に日生くんを好きになるチャンスがほしい!」
「ごめん」
日生くんは悲しそうな表情をする。
「やっぱり無理だよね……自己中だよね……図々しいよね……」
日生くんを見つめることができなくなって、俯いて視線を逸らした。
「違うんだ……実は……隣のクラスの子に告白されたんだよね。神崎さんと別れたあと」
「え?」
申し訳なさそうな表情を見せた日生くん。告白されることは悪いことではないし、なにの罪もないと思う。むしろ、罪があるのは私の方だ。
私でなくても他に良い人がいるんだなと思ったら、目が潤んできた。今にも落ちそうな涙を目に溜める。
「僕たちまだ一年生だけど、振ったんだよね。受験勉強とかで忙しくなるからって……嘘ついたんだよ……本当は神崎さんのことが忘れきれてなくて、次の恋に進めなかっただけなんだけどさ」
心苦しいとき、私も今の日生くんみたいな表情をしていたのだろうか。わからないけど、今の日生くんは凄く辛そうだった。
「それじゃぁ!」
勢いよく顔を上げると、溜めていた涙が左右に飛び散った。
「ごめん。それはできない……今僕がもう一度神崎さんと付き合ったりしたら、隣のクラスの子を裏切ることになる……嘘をついた上に裏切るなんて、僕のことを好きなってくれた人に、申し訳ないよ……」
そんな日生くんの言い分は筋が通っている。自己中心的に動いている今の私には、なにも言い返すことができない。
「そう、だよね……好きでもないのに付き合ってた私に、もう一度日生くんと付き合う権利なんてないよね。まだ好きにもなれてないし」
「そんなことは……」
それもそうだ。いくら日生くんが口を開こうとも、私が何度もお願いしようとも、結果は覆らない。
だって、私が悪いのだから。もういいんだ。もういい……もう一度、最初から始めてみれば何か未来が変わるかもしれない。
「今日からまた今までのように……一緒に学校に行こう! 私、日生くんのことを好きになれるように頑張るから! 改めて私と友達になってほしい」
そのあと、日生くんはなにかを言ったけど、その声は通過する電車の音で聞き取れなかった。
「日生くん、今、なんて……」
「ほら、そろそろ電車来ちゃうよ」
日生くんは私の声が聞こえていないのか、乗り口の方へと歩いていく。
「待ってよ。涼くん」
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