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4話 別々のクリスマス
告白されてから数日が経った。
「香里 昨日何してたの?」
朝学校に行くと、日葵が私の席までやってきて詰め寄った。その声は怒っているように聞こえる。
「どうしたの? 私昨日日葵と何か約束してたっけ?」
「そうじゃないでしょ!」
日葵は机に両手をつき、前のめりになって私に詰め寄った。
「よかった……何か約束をすっぽかしちゃったのかと……」
胸を撫で下ろす私。そんな私に向かってスマホの画面を見せつけてくる日葵の表情は険しい。
そのスマホの画面を見てみると、どうやらLIMEグループの会話だった。そのグループ名を見てみると、私が参加していないグループだということがわかった。
「これ、日生くんが香里のことについて相談したりするグループなんだけどさ、クリスマスプレゼントどうしたら良いのかな? って話してたんだよ」
「へー、そういうのがいつの間にか出来てたんだね」
私は新しい発見をして何故だか微笑ましい気持ちになった。
「日生くんはさ、ずっと香里のこと好きだったから、クリスマスも楽しみにしてたんじゃない?」
「日生くん一緒にクリスマスパーティーしたいなんて言ってこなかったよ? クリスマスの前日に明日って何してる? って聞かれたから、家族でクリスマスパーティーかなって言っただけで」
「当たり前でしょ! 家族でパーティーするって言われたらそれ以上何も言えないでしょうが!」
言われてみればそうだ。私が日葵を遊びに誘ったとき、家族で用事があると言われたらそれ以上は何も言えない。先に予定が入っているなら、それに割って入るなんてことは出来るはずがない。普通は身を引くはずだ。それを日生くんはしたんだ。
「それ、私が悪いんだよね?」
「まぁ、そうかもね」
私は今まで彼氏がいたことがない。友達がクリスマスパーティーをしていても、家族でするのが毎年の恒例行事だった。それが嫌ではなかったから、それが当たり前になっていた。
「今度埋め合わせでもしといた方が良いかもね。きっとクリスマスじゃなくても付き合いたてのカップルなんて一緒にいるだけで嬉しいんだからさ」
それは、きっと好き同士で付き合ったカップルの話だ。確かに私と日生くんの関係は付き合いたてのカップルだけど、私は日生くんのことを好きでもなく嫌いでもない。対して日生くんは私が好き。そんな関係性では日葵の言うことは違う気がする。
だけど、日葵は私が日生くんのことをどう思っているかを知らないはずだ。だから、一緒にいるだけで嬉しいなんて言葉が出てくるのは普通のことだと思う。
きっと、私がおかしいんだ。
私が好き。それは嬉しい。だけど、日生くんには申し訳ないと思うことがある。一緒に登下校をすることが嫌ではない。それは良いんだけど、特別遊びに行きたいとかそういう気持ちが無かった。
私は塾の帰り道、駅のホームで日生くんと一緒にいた。
「クリスマスのこと、ごめん」
「ううん。こっちこそ、ちゃんと言わなかったから」
私の謝罪に日生くんは怒ることもなく、むしろ、自分の方こそ悪かったという感じで返事をしてくれた。それがすごく申し訳なくて、日生くんから目線を反らしてしまった。
「なにか埋め合わせでもしたいんだけど……いつ都合良いかな?」
「埋め合わせ?」
埋め合わせと口にしたはいいものの、具体的に何をするのかと問われると何も考えていなかったから、返事には困ってしまう。
「一緒に、遊びに……行くとか?」
そう言ってみたものの、別に遊びたいわけじゃない。ただ、自分の部屋に呼んで、中を見られるよりかは外で会う方がマシだと思った。そんなことを考えて、その程度の返事しかできない私は自己中心的で心苦しい。
「うん。行く。行きたい」
日生くんは嬉しそうにニコッとした。
その表情を見て、まだ付き合って間もないのに、早く別れてしまった方が日生くんのためになるのではないかと考え始めていた。
「何処に行こうか?」
「日生くんに任せるよ」
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