1話 名前が読めない子からの告白

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1話 名前が読めない子からの告白

 私は駅のホームに立ち、電車を待つ。後ろには次々と学生や社会人が並び始める。通勤、通学ラッシュだ。ここは日本でトップクラスに入るほどの大きな駅。  電車がホームに到着してドアが開くと、雪崩のように人が流れ出てくる。また、この駅で待っていた人たちが電車へと入っていく。先頭に並んでいた私は車内で反対側のドアまで押し寄せられて、ドアにへばりついた。まさにすし詰め状態だ。隣を見てみると同じようにへばりついている顔があった。  その男の子とは毎日同じ駅を使い、同じホームの同じ場所で待ち、同じ時間の電車に乗る。だけど、話しかけたことはないし、話しかけられたこともない。だから、気づいているのは私だけかもしれない。  特別、この男の子のことが好きだとかそういう感情があるわけではないけど、こんなにも毎日同じだと誰なのかと気にはなってしまう。  三駅先の降りる駅に近づいていく。ゆっくりと止まる電車。男の子は人ごみを掻き分けて反対側の降り口へと向かう。私はその後ろにできた僅かな隙間を縫うように降りた。  そこで、私はその男の子を毎日見失ってしまう。だけど、降りれる隙間をつくってくれることだけはいつも感謝している。  教室に入ると、いつものようにおはようと、幼馴染の日葵(ひまり)に挨拶をした。そして、自分の席へと向かう。  机に鞄を置き、椅子を引いて座った。  授業はそれなりに真面目に聞く。休憩時間は友達とお話をする。お昼休みは友達と机をくっつけてお弁当を食べる。放課後は塾へと向かう。  親のすすめで入った塾だけど、私は別に勉強が嫌いってわけではないので続いて通っている。塾には他の学校からの生徒も来ていたりして、お互いの学校の話をしたりするのが意外と楽しかったりする。  塾は学校から近いところにあって、帰宅する頃には帰宅ラッシュを過ぎているため、電車は空いている。だから、帰りは座って乗ることができたりする。  そして、塾帰りの電車のホームでも、毎朝会う男の子と遭遇する。 「あ、あの!」  私が定位置で電車を待っていると後ろから声をかけられたので、とっさに振り向いた。  声をかけられたことで驚いた私は、虫が鳴くような声を口にすると、見たことのある顔がそこにはあった。毎日同じ電車に乗っている男の子だ。 「ちょっと良いかな?」 「なんですか?」 「ずっと言いたかったんだけど、ごめんなさい。毎日身体ぶつかっちゃってて」 「あぁそのこと……大丈夫ですよ。あんなに満員なら仕方がないです」  毎日同じ電車だと気づいていたのは私だけではなかったみたいだった。それもそのはず、こんな登下校をもう半年以上続けているのだから、気づかない方がおかしいと言っても許されはするはずだ。 「神崎さん」 「え? どうして私の名前知ってるんですか?」 「あの、僕、神崎さんのクラスメイトだから……クラスメイトの名前ぐらいは覚えてる。神崎香里(かんざきかおり)さん」 「えっと、あの……その……」  私は思い出せず、こんな男の子クラスメイトにいたかなと休憩時間の教室を思い返してみた。なんだか、いたような気もするし、いなかったような気もする。記憶が曖昧だった。 「僕、神崎さんのことが好きです! 付き合ってください!」
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