幸福な地獄

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半月前、私は推しのガチャで大敗した。完膚無きまでに、叩きのめされた。 初日に爆死した後、ガチャ期間中にログインボーナスやデイリーミッションをこなして。イベントを石を使わずにせっせと進め。溜まった石をガチャに注ぎ込んでも尚、私の所へ推しは降臨されなかった。 「……推しへの愛が足りないんじゃない?」 意気消沈して灰となった私へ、そんな言葉が投げられたのは推しガチャが終了した次の日の事。 「……愛が、足りない」 親友の言葉は衝撃だった。 雷に撃たれた事なんてないけど、多分、撃たれた時の様な。ただでさえ灰になっていた身体が、更に木端微塵になるくらいの衝撃だった。 祈願イラストは丁寧に仕上げた。 推しグッズは自作の神棚に沢山飾った。 服や小物、メイクは推しの概念で固めた。 抜かりはなかったはずだ。推しへの愛を自分なりに全面に出してきたつもりだ。 それでも私の所へ推しは来なかった。つまり、だ。親友の言う通り、私には愛が足りなかったんだろう。 「……どうすればいいと思う?」 真剣に問いかけた私を「それは自分で考えたら?」と親友は切り捨てる。 ……なるほど。それは私自身で愛を見つけろ、と。そう言う事か。 「ありがとう心の友……! 私頑張る!」 「……ガンバッテネ」 棒読み感が半端ない親友をスルーして、気合いを入れ直す。そうと決まれば、推しへの愛を深める方法を探さねば、……あ。 「……ラブレター! ラブレターは!? めっちゃ愛じゃん!」 「二次元の相手にどうやって渡すのよ」 がっと上がったテンションが、親友の冷静なツッコミで一瞬にして引きずり落とされる。……確かに親友の言う通りだった。 「うーん。でもいい線は行ってると思うんだよね。文字って、何か凄く愛!! って感じだし」 「……ソウネ」 「…………いっそ、推しへの愛を込めて小説書いちゃう?」 推しに向けたラブレターは推しにしか届かない。だけど愛を込めに込めた小説なら、同志達と共有する事が出来る。 「我ながら天才的な名案じゃない! よし! この勢いで小説の書き方の本買ってくる!」 「オウエンシテル」 死んだ魚の目で私を見送る親友に全力で手を振って、本屋さんへ突撃した。
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