2. 先輩と後輩 春

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「里奈ちゃん監督でおれ主演って……まさか『川辺の君と』?」 「あったり~! いやあ、あれほんと自信作なんですよねー。まじでマキさん綺麗に撮れたし」 「いやいやだめだって! あれは新歓で流すもんじゃないでしょ!」  槙人は必死に反対したが、部室から持ってきたやつそれしかないしもう準備完了終わってるし、と里奈は取り付く島もない。 「一体どんな映画なんですか?」  当然の質問だ。  それに対して里奈は「見ればわかるって」とにやにやするだけで、槙人はノーコメントを貫いた。      ◆ 『川辺の君と』  大学受験に失敗し引きこもりになった青年ナツキは、彼を気遣う家族に連れられ、山奥のロッジを訪れる。  旅先でも引きこもりがちなナツキは、遊びに行く家族の誘いにも応じず、日がな一日バルコニーから隣の小川を眺めていた。  そんな時、地元の青年タカヒロに声をかけられ、最初は警戒するナツキだったが明るいタカヒロと話すうちに心がほぐれていく。交流の中で、二人の間には友情を越えた愛情が育まれ始めていた。  しかし、ついにナツキが東京に帰る日がやってきて、タカヒロとの別れが近付く。  二人は再会を誓い合い、川辺で人知れず唇を重ねた―― 「あっ、ナツキだ!」  卓を移動するたび、上映会に来ていた一年生からそう言われる。街中で正体がばれた芸能人みたいな気分だ。 「ナツキ改め、市ヶ谷槙人でーす。よろしく」
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