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「さっきの映画、びっくりした」
「はは、だよなあ……」
正直、遥にはあまり見られたくなかった。無論映画に出たこと自体は自分の意志だし上映されることにも文句はないのだが。
ついこの前まで生徒だった遥に見られると思うと、なんとも言えない恥ずかしさというか、気まずい場面を見られてしまったような気持ちになる。
「先生、結構演技うまいね。びっくりした。なんていうか、すごい自然体だった」
「だろー? おれ結構引っ張りだこなんだぜ」
「最後のキスシーンも――あれ、本当にしたの?」
「まあな。最初は引きで撮って角度でそれっぽく見せるつもりだったんだけど、里奈監督が不自然だって言うからさ」
「相手役の人、大人っぽくてかっこ良かった」
「あーあの人な。当時四年の先輩なんだけど、二留してたから実際わりと年上だったんだよな。女癖めっちゃ悪くて遊びまくってたから全然学校来ねえの。そりゃ留年するわっていう」
そうなんだ、と言う遥の言葉には少し元気が無い。慣れない酒を飲んで気分でも悪いのだろうか。
「……演技なら、男相手でもキスできるの?」
「まあ里奈ちゃんに頼まれたし、キスぐらいなら断るってほどでもねえかな。エッチしろってわけでもなし」
煙草を咥えながら冗談めかして言ったのだが、遥が真顔なのを見て、あれ滑ったかなと焦った。
仮にも元先生なんだし、下ネタは気まずかったか。
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