2. 先輩と後輩 春

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「ううん、全然平気。そういえばさ、もう“先生”呼びは変だよね。なんて呼べばいいのかな」 「確かにもうおまえの先生じゃないしな。大抵マキで後輩からはさん付けって感じだけど」 「じゃあ……槙人さん」  あまりあだ名以外で呼ばれることがないので、なんだかそわそわした。しかも槙人『さん』なんて変に改まった感じだ。 「……なんか呼びにくくないか? マキの方があっさりしてていいだろ」 「だからいいんだよ。オンリーワンって感じで」  嬉しそうに遥は笑った。呼び方程度でこんなに笑うなんて、可愛いやつだ。      ◆  早々に入部して勧誘活動に加わった遥の影響もあってか、今年の新入部員は例年より人数が多く、どことなく華やかな雰囲気の子たちが目に付いた。 「今年の一年はあれだな、“陽”の者たちだな」  映画マニアが少ないので神田は残念がるかと思いきや、違う風が吹いていいと満足そうだった。  そんな新入生歓迎ムードの四月が過ぎ去り、五月も終わりに近付いている。  絶賛就活中の槙人は日々面接に追われている。早い学生はもういくつも内定を獲得しているが、槙人はいまだゼロだ。毎日のように送られてくる定型文のお祈りメールを見るたび気分が落ち込むものの、基本的に楽天家の槙人はそれほど気にしない。「受かればラッキー」くらいの気持ちで臨んでいる。
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