1. 講師と受験生

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「デート考えるのめんどくさがってたくせによく言うよ」  遥にはお見通しのようだ。呆れたように、けれど少し楽しそうに笑いながら解答用紙を渡してくる。 「あは、当たり」  受け取った解答を採点する。満点だった。 「おー、できてんじゃん。おまえ第一志望ほんとにおれのとこでいいの? この前の模試はたまたまいまいちだったけど、ワンランク上いけると思うけどなぁ」 「ううん、いい。挑戦するより堅実にいきたいし」  褒められて嬉しそうな顔をしたものの、手堅い返答だった。  遥はやんちゃそうに見えて、意外と生真面目で落ち着きがあり、大人びている。それは予習復習をきっちりこなし、課題を決してさぼらない学習態度を見れば明らかだ。  遥を担当し始めたのは約一年前。槙人が受け持つより前はそこまでガリガリ勉強するタイプではなかったらしいのだが、高三になって受験生としての自覚が高まったのか、今は模範的な優等生になって他の科目の講師からも評判が良い。 「さて、今日はこれで終わり。寒いから風邪ひかないように気を付けて帰れよ」 「はーい」  教室内の中を衝立で区切った授業用ブースから、遥は軽い足取りで出て行く。  生徒が帰っても、槙人には授業記録やその他諸々の事務作業が残っている。  職員スペースに戻って時計を見ると、すでに十九時半。今日もコンビニ飯になりそうだ。
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