1. 講師と受験生

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 大学一年生の頃からこの個別指導塾の講師というバイトを始めて三年目になる。授業の準備や事務作業などやることが多い割に時給が出るのは生徒に教えている時間だけなので、割に合わないと思うこともあるが、槙人はこの仕事を気に入っていた。  雑談多めで誰に対してもフラットに接する槙人は生徒からも親しみやすいらしく、時には学校生活の相談に乗ることもある。  一年前、もうじき高三になる中野遥という生徒を受け持ってみないかと塾長に言われた時は、大学受験生を見るのはハードルが高いと思って一度は断った。しかし比較的素直で課題忘れ等も少ないのでやりやすいと聞いたことに加え、女子高生の担当になるのも悪くないかという下心もあり、了承した。実際会ってみて実は男だということを知り落胆したのだが。  遥の志望校は、槙人が今現在通っている大学だ。有名な都内の私立大学で、多くの受験生が狙う人気校である。  それもあってモチベーションを上げるため大学生活の話をしたりするうち、遥とは特によく話をする仲になった。普通、講師が大学生のアルバイトだというのは生徒の親から良い顔をされないので明かさないものだが、良いことも悪いこともぺらぺらと話がちな槙人の性格もあって、遥には色々な話題を提供している。時には同じサークルの彼女の愚痴など、言わなくて良いことも。 「げ、もう九時かよ」  溜め込んでいた授業記録を書いたり来週の授業の準備をしたりしていたら、あっという間に時計の針が進んでいた。  きりの良いところで切り上げて、おつかれさまでーすと言って教室を出る。
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