64人が本棚に入れています
本棚に追加
上映会で流した映画の感想や、どこかのテニスサークルが出した露店がひどい味だったとか他愛もない話をした後、槙人は切り出してみることにした。
「詩織ちゃん、振ったんだって?」
「あー、うん……もう聞いたんだね」
遥は気まずそうに目を逸らす。
「唯香が詩織ちゃんのこと応援してたみたいだったからうるさくてさ。神田ももったいねえって騒いでたよ」
「はは、神田さんいつもそんな感じだよね」
「おれもお似合いに見えてたけどな」
「やっぱり槙人さんもそう思う?」
「え、なに。振ったの後悔してんのか?」
「ううん、そうじゃないけど……」
人が行き交う通りを見やる遥は、少しぼんやりしていて、元気がなさそうに見えた。秋の冷たい風がふんわりとした前髪を揺らして、憂いを帯びた茶色い目を露わにする。
「おまえから恋愛の話とか全然しないから、おれも聞かないけどさ……」
槙人は煙草に火を点けた。
「なんか悩んでるなら言えよ。まあ、おれに恋愛のアドバイスとかされたくねえかもだけど」
遥の視線が動いて槙人を捉えた。
大きなガラス玉みたいに透き通った目。それがものすごい引力を伴って槙人を引き込む。
煙草をくわえたまま動けなくなっていると、遥の双眸はなぜか泣きそうに歪み始めた。
「槙人さん、おれ……どうすればいいんだろう」
「遥?」
「……辛いんだ」
最初のコメントを投稿しよう!