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そんなやり取りが聞こえた後、里奈の体にもたれかかっていた体をぐいと引き寄せられ、支えられながらすたすたと男子トイレまで連れて行かれた。
便器に突っ伏すや否や、槙人は盛大に吐いた。こみ上げる吐き気にしばらく顔を上げることもできず、うんうん唸ることしかできない。
「槙人さん、これ水。飲んだ方がいいよ」
背中をさすってくれている遥が槙人の顔の横にペットボトルを差し出す。
「うえぇ……むり……」
「飲んだ方が楽になるよ、ね?」
「うう……」
なんとかペットボトルを受け取って一口水を飲む。
そしてまた便器にしがみついて吐く――それを何度か繰り返したら落ち着いてきて、槙人は座り込んで壁にもたれかかった。
「ほんと最悪……もう二度と酒飲まねえ……」
「槙人さん、口の周りにゲロついてるよ」
かさかさしたトイレットペーパーで口元を拭われる。後輩の遥にまるで小さな子供のように介抱されて、今更ながら恥ずかしくなってきた。
「帰りたい……布団で寝たい……」
「まだ四時前だから始発動いてないよ」
遥がちらりとスマホの画面を見る。
「……うち来る? ここからだと歩くには遠いからタクシーだけど槙人さんちより近いし……」
「行く」
即答した。
とにかく安居酒屋のうっとうしい照明や騒がしさから離れたい。静かな場所でゆっくり横になりたい。
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