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誰かに見つかると面倒なので、二人はひっそりと居酒屋を出て通りでタクシーを捕まえた。遥はぐったりしている槙人を支えながら、鞄やら卒業証書やら何から何まで持ってくれて、槙人は悪いなと思いつつタクシーに揺られながら吐き気をおさえるのに精一杯だった。
遥のアパートに到着し部屋に入った途端、槙人は倒れこんだ。
「大丈夫!? 吐きそう?」
「いや……とにかく横になりたい……気持ち悪いから起きていたくない……」
「ベッドに行った方がいいよ。体痛くなっちゃう」
ほとんど引きずられるようにしてベッドへ向かい、ぼふんと寝転がるとそのあまりの心地よさに涙が出そうになった。
「はるかぁ……ありがと……」
「ほんと珍しいよね、槙人さんがこんなに酔うなんて」
「最後だからってはしゃぎすぎた……」
そう、気楽な学生生活は終わった。線香花火の燃え尽きる直前みたいな馬鹿騒ぎの終焉が遥の小綺麗なワンルームだとは、不思議な感じがする。
「槙人さん、ちょっとコンビニ行ってスポドリとかウコンとか買ってくるよ。うちの近くコンビニないから時間かかるけど」
「あーわりぃな……」
槙人が着ていたジャケットをハンガーにかけたり枕元に水を置いたりした後、遥は出て行った。本当にできすぎた後輩だ。
外はもう白み始めており、電気がついていなくても部屋の中の輪郭を見て取れるようになってきた。
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