5. 先輩と後輩 卒業

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 全体的に黒やネイビーで揃えられた家具たちは無駄なものが乗っていたりすることもなく、さっぱりとしている。  遥の部屋に来たのは初めてだ。何度か宅飲みしようと言ったが、駅から遠いからだの散らかってるだの色々理由をつけられて結局叶わなかった。徒歩十分ちょいだし全然綺麗じゃん、と内心で文句を吐く。  ものすごくだるいことは変わりないが、酔いは段々とましになってきた気がして、ベッドから起き上がってみた。  視界はまだぐらつくが、動けないほどではない。気持ち悪さで変に目が冴えてしまって、眠ることは諦めた。  なんとなく部屋全体を見回していると、床の隅にちょこんと置かれた収納ボックスが目に留まった。何の変哲もない黒いプラスチックの箱だが、何か小物を入れておくというには少し大きく、衣類をしまうには小さい。  ふと気になって、その箱を開けてみた。無断に触るべきではないとわかってはいたが、酔いもあり好奇心に任せて開けてしまった。  そこに入っていたのは、丁寧に折りたたまれた一枚のTシャツだった。 「……あれ? これ……」  そのTシャツにはなぜか見覚えがあった。胸の辺りにバンドのロゴが入った水色のTシャツ。  槙人もそれと同じものを持っている。いや、正しくは持っていた。
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