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記憶の糸を手繰り寄せ、槙人が内定を取って神田と遥の三人で飲んだ夜に辿り着く。あの日、酔っ払った神田が吐いて、遥の服が汚れた。その時にあげたTシャツだ。
なぜこんな箱に入っているのだろう。あげたのだから持っているのは当然だが、衣装ケースでもない箱に一枚だけ入っているのは妙だ。
Tシャツに触れると、その下に何か固いものがあることに気付いた。ほとんど無意識に取り出したそれは、ディスクが一枚入った透明なプラスチックケースだった。
中に入っているディスクの白いラベルに、黒いマジックで日付が書いてある。
『8/12~14』
その日付にどこか引っかかりを感じながら、槙人は何かに駆られるように、テレビのリモコンを探し電源を入れて、テレビボードにしまってあるプレイヤーにディスクを入れていた。
なぜか槙人は緊張していた。
これは多分、遥が隠しておきたい何かだ。
片付いた部屋の中、どこか別の空間から取り残されたかのように、不自然に目立たない場所へ追いやられているかのような黒い箱。その中に大切にしまわれたTシャツとディスク。
――八月十二日から十四日。
それが夏合宿の日付だと気付いたのは、テレビの画面に晴れた日の海が映し出される直前だった。
防波堤の上を歩く男の後ろ姿。やがて彼は振り返り、戸惑ったような照れくさいような表情を浮かべる。
紛れもなく、槙人だった。
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