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映像の中の二人はしばらく話していたが、槙人が唯香の耳元で何か囁くと、唯香はこくんと頷いて、そのまま庭を突っ切ってどこかへ行ってしまった。
そこで映像は終わった。
槙人は座り込んだまま動くことができなかった。
早くしまわないと遥が帰ってくる。見られたら――
見られたら、どうなる?
別に遥に直接聞けばいい。これどういうことだよ、と笑いながら。
『好きな人がいる』
『その人は恋人がいるから』
『別れても、おれと付き合うことはないから』
半年前、学祭の時の遥が脳裏に現れる。
あの時胸に残ったざらざらした何かが、砂時計の最後の一粒のようにすとんと落ちた。
おれは馬鹿だ。なんで気付かなかった。いや、どこかで悟っていた。
でも、理性が直感を否定し続けていた。
遥が、男だからだ。
がちゃがちゃと鍵を開ける音が静寂を破る。続いて、夜明けの空気が薄闇を切り裂いた。
「お待たせー。あれ、槙人さん起きてて大丈夫なの?」
屈託のない遥の声。
足音が数歩分して、どさりとペットボトルや缶や何やらが、ポリ袋ごと床に落ちる音がした。
テレビの正面に座ってうつむいている槙人からは、遥の姿は見えない。しかし、遥が息をのんで立ち尽くしているのは気配で伝わってきた。
槙人の横に置いてある、蓋のあいた黒いボックス。空のディスクケース。動かない槙人。
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