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それですべてを悟ったのだろう。
その瞬間、ああそうなのか、と思った。
おいおいSDなくしたなんて嘘じゃねーかなんで隠してんだよてかTシャツなんでこんなとこにしまってあるんだこのバンド好きなんだっけ昔のライブDVD貸してやろうか――
全部をなかったことにするためのごまかしは頭の中で無限に湧いてきて、そして声になることなく消滅していった。遥もおそらく、真っ白な頭の中で必死に言葉を紡ごうとしている。
どれほど時間が経っただろう。槙人はかすれた声をようやく絞り出した。
「ごめん……勝手に見て」
なんだその情けない台詞は。
内心自分を殴りたかったが、どうしてもそれ以外に言うべき言葉が出てこなかった。
「……槙人さんが、謝ることじゃないよ」
それは今まで聞いた誰のどんな言葉よりも、弱々しく震えていた。
そこでようやく顔を上げて遥を見た。遥はうつむいたまま、ぴくりとも動かない。
消え入りそうな声でぽつりとつぶやく。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい」
放心したような遥の目から、涙がこぼれ落ちたのが見えた。
「好きなんだ……」
かろうじて聞き取れたその言葉は、槙人がこれまでに何度も言われてきた、好意を示すそれだった。けれど、こんなに苦しくて泣きそうに吐き出されることもあるのだと、槙人は初めて知った。
遥は男で、槙人も男で。
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