5. 先輩と後輩 卒業

10/12
前へ
/124ページ
次へ
「ねえ、槙人さん」  ゆっくりと遥は近付いてきて、槙人に向かい合って座った。  人懐こい後輩の皮を脱ぎ捨てた一人の男の目だった。  この期に及んでどうすれば今まで通りの関係でやっていけるか、必死に考えている自分の浅はかさを思い知った。 「一回だけ、ちゃんと言ってもいいかな」  狡い思考を見透かしたかのように、遥の視線が容赦なく槙人を追い立てる。引導を渡してくれと。  ああ、おまえはこんなに真正面から、ごまかしもなく真っすぐに言えるのか。 「槙人さん、初めて会った時からずっとあなたのことが好きでした。おれと……付き合って、欲しい」  途切れ途切れにゆっくりと、けれど確実に吐き出されたその言葉は死刑宣告に等しかった。  頭の中で一人の自分が言う。  ――イエスと言え。そうすれば遥を失わずに済む。   だめだ、冷静に考えろともう一人が言う。  今まで女としか恋愛してこなかった。  男となんてしたことがない、ましてセックスなど想像もできない。  ――試してみればいい。案外うまくいくかもしれない。無理だったら別れればいいじゃないか。  そんなことをすれば、どれだけ遥を傷つけるか。ただでさえずっと苦しい思いをさせていたのに、期待を持たせてだめになったら捨てるなんてできるわけがない。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加