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カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。いつの間にか夜が明けていた。
「最後に一つだけ――おれの夢、叶えさせて欲しい」
「夢?」
「うん。そうしたらもう槙人さんに関わらない。思い出だけ大事にするよ」
夢ってなんだと聞く前に、遥の整った顔が近付いてきた。
あ、と思った瞬間には唇と唇が触れていた。
それは本当に触れ合うだけの、たった一瞬の、あまりに短いキスだった。
「ごめんね。ありがとう」
もう電車動いてるね、と遥が言うと槙人は動き方をようやく思い出して立ち上がった。
荷物を持って見送られ、駅の方向を簡単に教えてもらう。
「槙人さん、卒業おめでとう」
扉が閉まる直前、そんなことを言われた気がした。
いやに眩しい早朝の住宅街を、どっちが駅なのかもわからずとぼとぼ歩く。遥に教えてもらった駅への道筋も、どうやって今この道へ辿り着いたのかもわからない。
気が付いたら、涙が頬を濡らしていた。
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