6. 槙人の話

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6. 槙人の話

「おーい、槙人! リリースの件、先方にちゃんと連絡した?」  斜め前の席から声をかけられ、画面にかじりついてメールを打っていた槙人は慌ててうなずいた。 「今から日程調整のメール送るとこです」 「ちゃんと余裕もってスケジュール組めよ」 「ういっす」  大学を卒業し、都内の大手IT企業の中規模子会社で働きだしてからこの四月で三年目になる。  土日休み、月平均残業時間二十~四十時間。忙しい時はもっといくが、定時であがれる日もまあまあある。給料は同世代の平均よりほんの少しだけ高く、それなりに恵まれた職場だ。 「槙人、ぼちぼち昼行こうぜ」  斜め向かいの大久保が煙草を吸う仕草をする。 「いいっすよ」  時計を見ると十一時五十分。クライアントへのメールも今しがた返信が完了し、一息つくにはちょうどいい頃合いだ。 「あの新しくできたカレー屋行ってみようぜ」 「えー、この前大久保さんがあたりつけたラーメン屋いまいちだったじゃん。大久保さんのセンス信用できないんですよね」 「今度は大丈夫だ、おれを信じろ」  都内の一等地にそびえたつオフィスビルのエレベーターホールは、昼時になるとテナントに入っている企業の社員たちでごった返す。  親会社はじめグループ企業の本社が数多くこのビルに入っており、十基以上ものエレベーターがせわしなく人々を運んでいく。
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