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オフィス街のランチはまさに戦争だ。槙人の大学があった場所も学生街だったので昼時はどの店も混んでいたが、ここは店の数も人口も比にならない。
槙人たちが向かったカレー屋はまあまあ空いており、並ばずに入ることができた。
「この時間で普通に入れるってことは……」
「雲行き怪しいっすね」
「くっそお」
子供っぽく悔しそうな表情の大久保は、大柄な体型に似合わず愛嬌がある。
直属の先輩で色々と面倒を見てくれる大久保は、槙人の三つ上だ。背が高く筋肉質なスポーツマンでぱっと見威圧感があるが、性格は気さくで話しやすく後輩に慕われている。
大体一緒に仕事をしているし、よく飲みに行く仲なので職場の人という意識があまりない。本当に仲のいい先輩だ。
メニュー表を開き、槙人はスープカレーを注文した。
大久保が首をかしげる。
「スープカレーって、OLみたいなもん注文するなあ。ルウがしゃばしゃばしてるだけだろ」
「結構おいしいですよ」
スープカレー。あいつがよく食べていた。今はもう懐かしさすら感じる、茶色い大きな目を思い出す。
『もう槙人さんには関わらない』
そう言った遥は本当に槙人の前から姿を消してしまった。
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