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別に何も、と答えた。あまりに不自然だがそう答えるしかなかった。
「そういえば、この前の合コンでめっちゃ可愛い子と連絡先交換してたじゃん。あの後どうなった?」
「あー、まあまあ連絡取ってるけどぼちぼちっすね」
「なんだそりゃ、まあまあとかぼちぼちとか」
仕事がそれなりに忙しいので積極的に恋愛しようと動くこともなくなったが、誘われれば合コンに参加するし、デートもする。
そこで連絡先を交換した商社の受付と、時たま会って一緒に出かけたり、何回かに一度セックスしている。これを普通は付き合っているというのだろうが、明確な言葉があったわけではないので、槙人の中では付き合っているということにはなっていない。
遥との一件があってから恋愛自体に身が入らなくなっていき、四年の時の彼女、唯香とも卒業してから間もなく別れてしまった。新社会人生活の忙しさを理由にして会う約束を躱し続け、唯香が愛想をつかすのを待った。我ながらいやなやり方だとは思う。けれど、遥の告白を断った時のように、なるべく相手を傷つけないように、ベストな拒否の方法を探すという気にはとてもなれなかった。
あまりにも唐突だった遥のキス。
キスなんてソフトなのも激しいのも何百回何千回としているのに、あれ以降誰かとキスをすると、遥の切なげな顔が脳裏をよぎる。
もう二年以上前のことなのに、少しも薄れてくれない記憶。
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