6. 槙人の話

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 慌ててスケジュールアプリを開くと、嫌な予感が的中した。神田の結婚式と出張が重なっていたのだ。  その時期は大口プロジェクトが佳境になっている頃で、新しく自社システムを導入予定の地方銀行に赴いて、リリース前のテストを数日間に渡って行う予定だった。通常であれば平日のみで行うのだが、クライアントの希望でテスト期間を少しでも短縮する必要があり、土日も休まず働くことになっていた。 「嘘だろ、滅多にない出張なのによりによってここで重なるなんて」  神田はあちゃーと残念そうではあったが、気にすんなと言ってくれた。 「無理そうだったら別の日に個別に祝ってくれよ」 「ああ、もちろん。まだ半年以上先だし、もしかしたらスケジュールずれるかもしれないから一応ぎりぎりまで様子見ていいか。迷惑かけるけど」 「もちろん! 里奈に締切聞いとく。マキに来てもらいたがってたからさ」  その日は学生時代の思い出話に華が咲いた。一年多く在学している神田は、槙人の知らないその後の映研の話もよく知っている。 「そういえば、先月ハルと飲んだよ。ハルももう四年だから就活でさ。あいつ背高いからスーツめちゃくちゃ似合ってて、おれより社会人らしかったよ」 「……そっか」 「おまえら、本当に卒業してから一回も会ってないのか?」 「ああ」  最後に会ったのは二年以上前。塾と大学、二つの環境で遥と過ごした時間を追い越した。
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