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2. 先輩と後輩 春
桜がぎりぎり見頃と言えなくもない春休み明けのある日、槙人はスーツを着て久々の大学へ向かっていた。
就活が本格的に始まり、塾のバイトもしばらく休んでいる。内定をもらったらまた復帰するつもりだ。
もっぱら春休み中も会社説明会やらエントリーやらで休んだ心地はしなかったが、久々に大学の友人に会えると思うと嬉しかった。
四月の上旬は新入生歓迎期間とされていて、キャンパス中にあらゆるサークルがスペースを作って新入生を勧誘する。あまりの勢いに新入生たちはたじろぎながら、両手いっぱいのビラを抱えて学部のオリエンテーションに参加するのが毎年の光景だった。
槙人が所属する映画研究会も同じく勧誘に励んでいて、今日はサークルに興味のある一年生を呼び集めて、部員が撮った映画の上映会と、その後に交流会と称した飲み会を開く。槙人のような四年生は就活があるので、勧誘活動にはあまり参加しないが飲み会には顔を出すこともある。
今日は説明会が昼過ぎに終わったので、勧誘ブースの様子を見て行こうと思いキャンパスへ向かうことにした。
「お、あれか」
中庭の一角に、映研の看板とブースを見付けた。同期の神田と、三年生の里奈が一年生と思しき女子生徒二人と向かい合って座り、必死に勧誘していた。
神田が槙人に気付いて、ぶんぶんと手を振りながらなぜかこちらを指さしている。
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