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遥に会いたい気持ちはある。神田や里奈を通せば、なんとかして機会を設けてくれるかもしれない。
でも、遥は会いたくないだろう。
無理矢理にでも会ってどうしたいのいか、自分の気持ちもよくわからない。
◆
神田の結婚式が執り行われる三週間前、奇跡が起きた。
結婚式と重なっていた出張が、クライアントの都合で急遽一ヶ月後ろ倒しになったのだ。
出席できるようになったことを慌てて伝えると、神田は大喜びして席を用意してくれた。
会場は横浜のこぢんまりとした専門式場だった。
レトロな雰囲気のロビーでスタッフの案内を受け、ゲスト待合室へ入る。二人とも同じ大学の同じサークル出身かつ同じ会社勤めなので共通の知り合いがほとんどで、新郎側・新婦側でゲストの区分けをしていないようだった。
ウェルカムドリンクを受け取って部屋の中を見渡す。全部で三十人ほどだろうか。結婚式に出席した経験がほとんど無いので相場がわからないが、映研の懐かしい面子を何人か見つけた。
その中にすらりとした背の高い後ろ姿を見付けて心臓を鷲掴みにされた。
――遥だ。
顔を見なくてもわかる。あの立ち姿、小さく整った頭の骨格。茶色っぽい猫毛。
どうしよう。いつまでも入り口付近で突っ立っていたら変に思われる。知り合いなんだから声をかけるのが普通だ。でも、でも、でも。
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