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あまりに無様な誘い文句に泣きたくなった。普段ならもっとスマートに誘えるのに、緊張して言葉がうまく紡げない。どう言えば相手がどういう反応をするかいつも想像がつくのに、遥がおまえとなんか飲みに行くかと言わないか心配で心配でたまらない。
遥はきょとんとした後、噴き出した。
「別に奢らなくてもいいよ。槙人さんお金なさそうだし」
「馬鹿にすんな! 社会人なめんなよ」
「あはは、そういえばそうだった。槙人さんがサラリーマンてほんと信じられない」
屈託のない遥に心から安堵し、飛び跳ねそうな勢いの槙人だった。
どこにする、いっそ渋谷まで出た方が帰りやすいよな、とか二人だけの二次会を決める時間も楽しい。結局渋谷まで移動することになったが、移動中の電車の中でもずっと話していた。
渋谷に着くと、キャッチを避けながら学生時代よく飲んでいた居酒屋に入った。
「いやー、ほんとぎりぎりになって行けてよかったわ。披露宴って出し物ない時間なにすんだろって思ってたけど意外と歓談と食事でちょうどいい塩梅になるのな」
「プロフィールムービーとか自作でクオリティ高かったよね。さすが映研出身の映像制作会社勤務」
今日の結婚式や学生時代の話で盛り上がりながら、ふとした瞬間に時の流れを感じる。
常にはしゃぐようなトーンだった遥の話し方は、低く静かになっており、言葉遣いや相槌もどことなく昔とは違う。
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