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居酒屋を選ぶ時も、無意識に年齢確認が緩い大手チェーンを探そうとしたが、もう遥はとっくに成人していたのでその必要はなくなっていた。
「槙人さんは仕事どう? 忙しい?」
「そこそこ。遥も就職先IT系だっけ?」
「うん」
「忙しさとか休みやすさは会社によりけりだからなあ。うちなんか結構待遇いい方だと思うけど、やめてく奴も全然いるし」
「そうだよねえ。あ、そういえばこないだ卒業旅行イタリア行ったんだ」
そう言って見せてきた写真には、コロッセオを背景に遥と同期の映研の面々が笑顔で映っていた。
その中には唯香もいる。
「おー、いいな。おれも大学の時海外行っとけば良かった。おまえとか神田誘って」
「唯香とバリ行ってたじゃん」
からかうような笑顔の遥に一瞬、どきりとする。
元カノの話題は、というか恋愛の話題は出したくなかった。不意に、卒業式の夜に巻き戻ってしまう気がしたから。
「バリなんて……全然近場じゃん。やっぱいくならアメリカとかヨーロッパとかだろ」
新しい煙草をくわえてカチッカチッと着火レバーを押すも中々火が点かず、四度目くらいでようやく点いた。
仕事の話、生活の話。不自然なくらい恋愛の話題はあがらない。
正直、槙人が遥の告白を断った後、遥の恋愛事情はどうなっているのかとてつもなく気になっている。でも自分から聞けるはずはなかった。
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