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そんな槙人とは裏腹に、遥は突然切り込んできた。
「神田さん結婚したけどさ、槙人さんは? 結婚考えてる彼女とかいないの」
きゅっと喉元を絞められたような心地がした。
「――いや、おれは――」
「まだ社会人三年目で結婚考える方が珍しいか」
「いない。ってか、しばらく付き合ってる人いないから」
いないからなんなんだと思わず自分自身に突っ込みをいれる。
「え、そうなんだ。珍しいね」
そういう遥はごく自然だ。店員を呼び止め、ハイボールを注文したりしている。
急に遥の感情が読めなくなる。いや、ずっと読めない。表面上はにこやかで自然だけれど、腹の中は何を考えているのか、目の前の槙人をどう思っているのか。
手ひどい失恋をさせた槙人を恨んでるんじゃないのか。それとももう完全に吹っ切れているのか。
それでも、今は遥と一緒にいたかった。久々に気の置けない学生時代の仲間と会って楽しい、そういう気持ち以外にも、遥の顔を見ていたい、同じ空間にいたいという気分になぜかなっていた。
終電が近くなって、そろそろ帰るか、という雰囲気になった。槙人は約束通り奢った。申し訳なさそうにありがとうと言う遥に、心がざわめいた。以前ならば喜んで奢られていたのに、やけに他人行儀に思えたからだ。
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