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それは、直前の生々しい告白より何倍も重く槙人を殴りつけた。
ぐらりと体が傾きそうになるが、なんとか支える。
「……そっか。おまえの都合考えずにごめん。今日は楽しかった。じゃあな」
早口で言い切って背を向け足早に立ち去った。
人並みに逆流して繁華街の方へ戻る。どこでもいい、とにかく逃げ出したい。
遥がなんとなく前と違う気がしたのは、大人びただけじゃない。
もう槙人に恋をしていないからだ。
認めた瞬間、心臓を氷で裂かれたように胸が痛く、そこから悲しみがどろどろと溢れてきた。
馬鹿だ。滑稽だ。あほらしすぎて、情けなくて笑えてくる。溢れる涙を止められず、二月の冷気に目が凍り付きそうなる。
どうしようもなくなってから、遥に恋していたことに気付くなんて。
あの時、最後にキスなんてされなければ、気付かないままだったかもしれない。記憶の中の遥に蓋をして適当な恋愛をどこかの誰かとしていたかもしれない。
遥と性的に触れ合うなんて想像もできなくて、自分にはとても無理だと思って、背を向けるしかなかった。
でも、夢を叶えたいと言ってされたキスに、遥と恋人になる未来をほんの少しだけ見せられた。
あの時はただただ戸惑って、その先どうなるかなんて今もやっぱりわからないけれど、遥となら進める気がする。何よりも、遥と一緒にいたい。
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