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けれど、すべてがもう遅い。遥は槙人を振り返らずに一人で先に進み、今は別の誰かが隣にいる。
路地に座り込んで泣いていても、土曜夜の渋谷ではただの酔っ払いだと思われて、気にする通行人なんて一人もいない。
喧騒に取り残されてただ一人、家には帰りたくなかった。寂しくて辛くて潰れてしまいそうだから。
しばらくうつむいた後、スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。
上の方に出てきた名前に通話をかける。間もなくして、相手が出た。
『どうした、急に』
「大久保さん、今家ですか?」
『あ? そうだけど何』
「吉祥寺ですよね。今から行ってもいいですか」
『はい? 市ヶ谷くん? 何言ってんの?』
「今渋谷にいて終電逃したんです。泊めてください、土曜なんだしいいでしょ」
『終電逃したって……おまえんち下北だろうが。吉祥寺より全然渋谷近いじゃねえか。タクで帰れよ』
「辛くて死にそうなんです。誰かと話したいんです」
『……何があった?』
「失恋しました」
なんとも言えない空気が電話の向こう側から伝わってくる。大きなため息の後、わかったと住所を告げる声がして、覚えられないのでとりあえず駅まで行くから迎えに来てくれと言うと、憤慨しながらも了承してくれた。
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